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生薬解説【ダイオウ】       基本情報・学術トピックス

ダイオウ(大黄)

英名:Rhubarb  ラテン名:Rhei Rhizoma

基原植物:Rheum palmatum Linné, Rheum tanguticum Maximowicz, Rheum officinale Baillon, Rheum coreanum Nakai又はそれらの種間雑種(Polygonaceae タデ科)

*局方中で「種間雑種」を基原植物と規定している理由は、Rheum 属(ダイオウ属)植物は種間でお互いに交配して種間雑種をつくり易く、生薬の基原植物の特定が困難だからです。そのため、個々のバラツキが非常に大きくなり、品質上の管理が難しいとされています。

初夏に淡黄緑白色から淡紅色の小花を咲かせる多年草で、草丈は約2m、葉はハート型で60㎝ほどに成長します。

ダイオウには特異なにおいがあり、味はわずかに渋くて苦く、また唾液が黄色くなります。食用として、シベリア原産のショクヨウダイオウ(食用大黄)を食べやすく改良した「ルバーブ」は、ジャムなどに配合されて親しまれています。

ダイオウの花

1.基原

1-1.基原

本品はRheum palmatum Linné, Rheum tanguticum Maximowicz, Rheum officinale Baillon, Rheum coreanum Nakai又はそれらの種間雑種(Polygonaceae)の、通例、根茎である。本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、センノシドA (C42H38O20:862.74) 0.25%以上を含む。

1-2.調製

4年目の秋、5年目の春、または秋に掘り取ります。収穫した根茎や根の外皮を剥ぎ水洗後、適当な大きさに切り乾燥させます。

2.産地

2-1.日本

北海道

梅雨~夏の高温・高湿の気候を嫌い、従って日本での栽培には不向きでした。しかし、研究を重ねた結果、北海道などの寒冷地で栽培する事が可能となるシンシュウダイオウを開発しました。

ダイオウは奈良時代に中国から献上品として持ち込まれました。

2-2.中国

四川省、雲南省や青海省の標高2000~3000mの高原地帯に自生しています。

中国最古の薬物書である「神農本草経」には、効能・効果として「まず瘀血(おけつ)を除き、腸内に停滞した便を排泄させる」と記載されています。また「治病を主とし、地に応じ、多毒、長期にわたって服用してならない」と注意書きが記載されています。

3.主な成分

3-1.Sennoside A(センノシド A)

(CAS No. 81-27-6)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

大腸内にいる腸内細菌で代謝されたレインアンスロンに瀉下作用があり、その配糖体であるセンノシドAはプロドラッグとして働きます。

*参考:Rheinanthrone(レインアンスロン)

(CAS No. 480-09-1)   【構造式:出典】JoyPlot

3-2.Rhein(レイン)

(CAS No. 478-43-3 )   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

3-3. Emodin (エモジン)

(CAS No. 518-82-1 )   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

3-3.その他

Anthraquinones(physcion、Aloe-emodinなど)、Stilben glycosides、Tannins、Fatty acids など

4.効能・効果

瀉下(しゃか、しゃげ)作用

腸管を刺激して蠕動運動を起こします。便秘,腹満,腹痛などに効果があります。また、便秘に伴う吹出物、肌荒れ、頭重,のぼせ、腸内の異常発酵への適応もあります。

*一般的に強い薬効を有する事から「将軍」と呼ばれる事もあります。

5.副作用

ダイオウの薬効には個人差があり、規定の服用でも腹痛、下痢、食欲不振の症状が出る事があります。過剰の服用は避けなければなりません。。

長期常用によって薬物耐性がでる事があります。

6.副作用の回避

副作用の兆候がでましたら医師に相談してください。また、長期投与によって薬物耐性が生じ、効果が得られなくなった際に、薬効を出す目的で服用量を増やす事は避けてください。

7.ダイオウの多様な研究

Figure 1. Biological activity of Rhubarb

Figure 1. はダイオウを対象とした主な研究分野を示しています。近年、中でも抗酸化作用、抗潰瘍作用に関する報告が多い様です。

Ref.: Bilal, S., et al. (2013). RHUBARB: THE WONDROUS DRUG. A REVIEW. International Journal of Pharmacy and Biological Sciences, 3(3), 228-233

8.トピックス:近年の研究

ここではLin Weiらの、ダイオウを塗布した絆創膏を、へそに貼り付ける事による、慢性便秘症の改善に関する研究をご紹介します。

8-1.背景

便秘は機能性胃腸障害(FGID:Functional gastrointestinal disorder)であり、プライマリケア(かかりつけ医による医療)ではよく見られる症状です。この疾患に対して中国ではおよそ2000年前から局所外用薬として、ダイオウへそ絆創膏(Topical therapy with rhubarb navel plasters)が用いられてきました。しかし、ダイオウへそ絆創膏の有効性は経験則として認識されるのみでした。そこで、便秘を発症しているボランティアに対して、ダイオウを塗布した絆創膏をへそに貼り、慢性便秘改善の有効性を確認する事にしました。

8-2.実験方法

8-2-1.ボランティアの選出

中国の6か所の病院において、便秘を発症したボランティアを募集したところ、505人(18歳から85歳)の患者が集まりました。集められたボランティアに対して便秘の基準を定め、トライアルグループ(n=181)とプラセボグループ(n=161)をそれぞれ選出しました。

8-2-2.投与

Figure 2. Preparation

【出典】Wei, L., et al. (2021). Topical therapy with rhubarb navel plasters in patients with chronic constipation: Results from a prospective randomized multicenter study.

Figure 2.に製剤の作成方法を示します。

トライアルグループには、粉末状ダイオウ1gとハチミツ1gを練り、Figure 2.中央の写真の様に絆創膏に塗布をしてへそに貼り付けました。プラセボグループは小麦粉1g、ハチミツ1gと着色剤を練り、上述と同様に絆創膏に塗布してへそに貼り付けました。

投与は1日あたり6時間、8日連続で実施しました。

8-2-3.ダイオウへそ絆創膏の便秘改善効果

8-2-3-1.ダイオウへそ絆創膏の8日間連投による便秘症状の改善

方法:

Table 1. Cleveland Constipation Score ( CCS )

【出典】味村俊樹. (2020). 慢性便秘症の診断と治療.

便秘症状の判定は、Table 1. Cleveland Constipation Scoreを用いて行いました。表の左縦方向に記載されている各所見を、表中に記載されている基準で0~4点でスコアリングし、その総和のCCS値を便秘症状の指標として判定します。ここでは0日目と8日目のCCS値を比較する事によって、症状の改善効果を検証しました。

結果:

Table 2. Cleveland scale score comparison after treatment between two groups and difference endpoint and baseline results. Score and SD are shown. P < 0.001.

Figure 3. Comparison of the Cleveland Constipation Score (CCS) between the two groups. * Significant difference compared with the control group, P < 0.05

【出典】Wei, L., et al. (2021). Topical therapy with rhubarb navel plasters in patients with chronic constipation: Results from a prospective randomized multicenter study.

*Treatment Group:トライアルグループ、Control Group:プラセボグループ

Table 2.に検討開始時(Day0)のCCSと、検討終了時(Day8)のCCSを示します。またFigure 3.はTable 2.をグラフにしたものです。

これらの結果から、0日と8日のCCS値の変化量は、トライアルグループが6.04に対して、プラセボグループは2.73であり、トライアルグループの方がプラセボグループより変化量は大きい事が分かります。よって、ダイオウ絆創膏によるへそ外用局所投与は、便秘症状の改善に有効である事が確認されました。

8-2-3-2.ダイオウへそ絆創膏の8日間連投による便形態の改善

方法:

Figure 4. Bristol Stool From Scale (BSS)

便の形態はFigure 4. Bristol Stool From Scaleを用いて行いました。0日~8日まで毎日、BSSに基づいて便の形態を観察しました。一般的には、type1,2を便秘形態(Hard)、type3,4,5を通常形態(Normal)、type6,7を下痢形態(Liquid)と診断されています。

結果:

Table 3. Comparison of BRISTOL stool morphology classification between two groups.

Three categories: Hard (Type 1–2), normal (Type 3–5), and liquid (Type 6–7).

【出典】Wei, L., et al. (2021). Topical therapy with rhubarb navel plasters in patients with chronic constipation: Results from a prospective randomized multicenter study.

Table 3. に0日から8日までの便の形態変化を示しました。さらにその日に排便しなかった人数と比率も記載しました。

通常形態(Normal)に着目して、トライアルグループ(Control)の便形態の比率は、開始時の19.3%に対して終了時は65.2%まで増加しました。一方でプラセボグループ(Placebo)は開始時の15.5%に対して終了時は43.5%で、増加幅はトライアルグループの方が大きい事が分かります。

また、排便無し(No defecation)に着目して、トライアルグループ(Control)の比率は、開始時の63.0%に対して終了時は27.1 %まで減少しました。一方でプラセボグループ(Placebo)は開始時の65.2%に対して終了時は47.2%で、減少幅はトライアルグループの方が大きい事が分かります。

総合的に判断して、ダイオウのへそ絆創膏による投与は、便形態の改善、更に排便頻度の改善に有効である事が確認されました。

さらに下痢形態(Liquid)に関して、トライアルグループ(Control)は3.9%から1.7%に、プラセボグループ(Placebo)は5.0%から3.1%となり、ダイオウの副作用として懸念される、下痢症状は増加しませんでした。

したがって、経口投与と比較して、へそ絆創膏による投与は穏やかに便秘症状が改善される事が分かりました。

8-2-3-3.ダイオウへそ絆創膏の8日間連投による排便頻度の改善効果

Figure 5. Comparison of the 24-h defecation frequency from day 1 until day 8 between the Treatment and Control group.

【出典】Wei, L., et al. (2021). Topical therapy with rhubarb navel plasters in patients with chronic constipation: Results from a prospective randomized multicenter study.

Figure 5.のグラフは投与期間中(8日間)の1日の排便頻度を示しています。投与4日目からトライアルグループの方が、排便頻度は概ね増加しており、1日の排便頻度は改善される事が分かりました。

これらの結果から、ダイオウ絆創膏によるへそ投与(外用局所)には、便秘の改善効果がある事が分かりました。さらに、経口投与からへそ投与に吸収経路を変更する事によって、マイルドに薬効が発揮できる事が分かりました。

Ref. ①: Wei, L., et al. (2021). Topical therapy with rhubarb navel plasters in patients with chronic constipation: Results from a prospective randomized multicenter study. Journal of Ethnopharmacology, 264(10), 113096-

Ref. ②:味村俊樹. (2020). 慢性便秘症の診断と治療. 健栄製薬株式会社

Ref. ③:S. J. Lewis & K. W. Heaton. (1997). Stool Form Scale as a Useful Guide to Intestinal Transit Time. Scandinavian Journal of Gastroenterology, 32(9), 920-924

Ref. ④:Agachan, F., et al. (1996). A Constipation Scoring System to Simplify Evaluation and Management of Constipated Patients. Diseases of The Colon & Rectum, 39(6), 681-685

9.引用文献

第十八改正日本薬局方

日本薬局方収載生薬の学名表記について

公益社団法人東京生薬協会 新常用和漢薬集 ダイオウ

生薬詳細 薬用植物総合情報データベース

公益社団法人日本薬学会 薬学コラム「今月の薬草」 

読売新聞 医療・健康・介護サイト 薬と薬草のお話

武田薬品株式会社 京都薬用植物園 シンシュウダイオウ

アリナミン製薬株式会社 からだの健康サイエンス ダイオウ

アリナミン製薬株式会社 わが国での良質大黄の栽培と育成

福田龍株式会社 ホームページ

株式会社ウチダ和漢薬 生薬の玉手箱

クラシエ株式会社 漢方の取り組み ダイオウ配合製剤 品質一定化への取り組み

薬草と花紀行のホームページ

内藤記念くすりの博物館 ホームページ

QLife漢方 ホームページ

富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 240-241

 

 

 

 

 

 

 

 

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