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生薬解説 【トウガラシ】       基本情報・学術トピックス

トウガラシ(唐辛子、蕃椒)

英名: Capsicum ラテン名: Capsici Fructus

基原植物: Capsicum annuum Linné (ナス科 Solanaceae

トウガラシは日本では1年草、熱帯では多年草の植物です。用途は多岐に渡り、生薬以外に食用、香辛料、サプリメント、入浴剤、湿布、クリームまた虫やネズミよけ、カビ繁殖防止、催涙スプレーなどに使用されています。トウガラシの品種は、チルテピン、鷹の爪、ハラペーニョなど1600種類以上あると言われています。中でもpepper Xと言う品種が最も辛いとされています(ギネス認定記録ではキャロライナ・リーパーとなっています)。

1.基原

1-1. 基原

本品はトウガラシ Capsicum annuum Linné (ナス科 Solanaceae の果実である。
本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し、総カプサイシン( (E)-カプサイシン及びジヒドロカプサイシン)0.10%以上を含む。

1-2. 調製

株全体で70 ~ 80%の果実が完熟したころ、株を掘り上げ収穫し、陰乾する。収穫後は風通しのよい所で十分乾燥し、果実のみつみとる、むしろなどに広げてさらに乾燥したものが生薬のトウガラシです。

 

トウガラシの花

 

2.主な産地

2-1. 中南米:ブラジル、メキシコなど

原産地はアマゾン川流域で、栽培は6500-5000年前のメキシコと考えられています。ヨーロッパには1942年、コロンブスの航海によって持ち込まれました。

2-2. 東南アジア:インド、タイなど

インドが世界生産量の40%を占めています。

2-3. 日本:京都府、千葉県、大分県、福岡県など

豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に持ち込まれたと言う説と、逆に日本から朝鮮半島に持ち込まれたと言う説があり真偽の程は分かりません。

3.主な成分

3-1. 成分

3-1-1. (E)-Capsaicin((E)-カプサイシン)

                   (CAS No.404-86-4)        【出典:構造式】Wikipedia

トウガラシの主成分。辛み成分。

主な効果:食欲増進、脂肪分解促進、血流改善、コレステロール減少、便秘解消、育毛、養毛などが知られています。

3-1-2. Dihydrocapsaicin(ジヒドロカプサイシン)

                    (CAS No.19408-84-5)      【出典:構造式】Wikipedia

辛み成分。カプサイシンよりも後に引く辛さと言われています。

3-1-3. Capsanthin(カプサンチン)

                     (CAS No.465-42-9)       【出典:構造式】Wikipedia

カロテノイド色素(赤)

主な効果:抗酸化作用

3-1-4. その他

β-カロテン、ビタミンC、ビタミンEなど

3-2. 成分の含量による違い

3-2-1. 品種・生育環境・収穫時期によって成分の含量は変化する。

各成分の含量は品種によって異なります。また、同一種でも生育環境(土壌の成分、土壌のpH 、温度、水分量、日照時間)、保管環境によって異なります。更に、成熟過程でも異なります。

3-2-2. 熟した方が辛くなる。

カプサイシンはトウガラシの胎座(ヘタの近くのワタの部分で種子が付着する組織)と隔壁の間で合成されます。熟すに伴いカプサイシンの量が増えます。すなわち熟した方が辛くなります。

胎座(白い種子が付着している組織)と隔壁

Ref. カプシカム研究所ホームページ.【辛味成分の合成メカニズム】カプサイシンの生合成経路. (2020)

3-2-3. 熟すと色は青から赤に変わる。

熟す前のトウガラシは緑色で青トウガラシと呼ばれています。一方で熟したトウガラシは赤色で赤トウガラシと呼ばれています。赤色はカプサンチンに由来するもので、熟すとカプサンチンの量が増えて赤色になります。

青トウガラシ(熟成前)→ 赤トウガラシ(熟成後)

Ref. 新近畿中国四国農業研究 小西あや子et al. (2019). 2 巻 p. 20-25

4.効能・効果

トウガラシの効果・効能は概ねカプサイシンに由来しています。

4-1. 食欲増進

食べ物の消化に関わる唾液や胃液の分泌を増加させ、食欲を増進します。

4-2. 便秘解消

ぜん動運動を促進して排便をスムーズにし、便秘の解消をします。

4-3. 血流改善

カプサイシンによって分泌されたアドレナリンが、毛細血管の血行を良くし血流改善に繋がります。

4-4. 発汗

中枢神経が刺激され、アドレナリンの分泌を促進します。これが脂肪代謝などエネルギー代謝を促進して、発汗を促します。

4-5. 脂肪分解促進(ダイエット)

運動する事によって、アドレナリンの分泌が増加し、脂肪を燃焼させます。このタイミングでカプサイシンを摂ると、アドレナリンの分泌が更に増して脂肪の燃焼効果を高めます。

4-6. 美肌

カプサイシンによる血流改善で発汗を促します。また、皮脂の分泌が盛んになり、汗の水分と皮脂の油分で乾燥し難い肌になります。また、トウガラシには多くのビタミンが含まれていて美肌効果を更に引き出します。

4-7. 血圧降下

コレステロール値が低下する事によって、血管壁に付着するコレステロール量が減って血圧が降下します。カプサイシンは、生活の中で汎用される調味料の旨味成分の一つで、トウガラシを含む料理は旨味が増すため、その結果、塩分の摂りすぎを防ぎ、高血圧を予防します。

4-8. (経皮)腰痛,筋肉痛,肩こり,リュウマチ,関節痛,神経痛、冷え症などの治療と改善

カプサイシンを塗布するとその部位の血流が改善されます。その結果、代謝があがり発痛物質が除去されます。また、カプサイシンによって感覚神経が麻痺して痛みを緩和します。

5.副作用

5-1. 胃腸障害

過剰摂取によって胃腸壁の保護作用がなくなり炎症をおこす事があります。下痢になる事があります。直腸付近で灼熱感を感じる事があります。

5-2. 呼吸器障害

過剰摂取によって過度の気管支収縮がおこり息切れや咳を起こしやすくなります。

5-3. 粘膜への影響

眼や鼻の粘膜に触れる事による局所刺激は、流涙、鼻漏を起こしやすくなります。

5-4. 精神疾患

アドレナリンの過剰分泌によって、うつ、パニック障害、不眠などの精神疾患を起こしやすくなります。

5-5. 毒性

LD50 (半数致死量:投与した動物の半数が死亡する量): 60~75mg/Kg B.W. (マウス 経口投与)

6.副作用の回避

6-1. 過剰摂取を避ける。

副作用はトウガラシの過剰摂取に起因する事が多いです。カプサイシンの一日許容摂取量は体重1Kgに対して5㎎(体重60Kgの場合、300㎎)です。鷹の爪(日本で代表的なトウガラシの品種)1本(約1g)には、約1mgのカプサイシンが含まれています。但し、この数値はあくまでも許容量です。無理のない様に摂取してください。

6-2. 牛乳を飲む

経口にて接種した場合、牛乳を飲む事で牛乳中のタンパク質がカプサイシンを流して、辛みを抑える事が出来ます。

7.トウガラシ(カプサイシン)の多様な研究

トウガラシの活性の多くはカプサイシンに由来しています。本稿ではカプサイシンの研究を取り上げる事とします。

7-1. カプサイシンの薬理作用は、概ねTRPV1が関与している。

トウガラシの味の「辛い」は「痛い」に近い感覚で、トウガラシの主成分であるカプサイシンが舌の痛覚細胞を刺激して起きる現象です。カプサイシンによる刺激が電気信号に変わり、神経細胞を通して脳に伝わる事で「辛い」=「痛い」を認識します。そのためには細胞表面に受容体(receptor)と言う、このカプサイシンの刺激を受け取る仕組みが必要となります。1997年にDavid Juliusらはカプサイシン受容体TRPV1の単離を行い、またTRPV1の機能解析を行いました。

【出典】Dietary Capsaicin Protects Cardiometabolic Organs from Dysfunction

Ref. : Sun, Fung., Xiong, Shiqiang., Zuh, Zhiming.  (2016). Dietary Capsaicin Protects Cardiometabolic Organs from Dysfunction. Nutrients, 8(5), 174

TRPV1は陽イオンチャンネルで、カプサイシンを受け取ると、TRPV1チャンネル近傍の細胞膜のコンフォーメーションを変化させて、Ca2+やNaが細胞内に流れ込む事できる様になります(青点線矢印)。この結果、脱分極が起こり、活動電位を発生させ、脳が灼熱感(焼けつく痛み)を感じます。

また、PRTV1は43℃以上の温度による刺激でも反応する事が分かりました。高い熱に曝された時に同様に「熱い」=「痛み」として感じるのです。

この研究によって、Prof. David JuliusとProf. Ardem Patapoutianは「温感と触覚の受容体の発見“For the Discovery of Receptors for Temperature and Touch”」と言うテーマで2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

Ref. ① : Julius, David., Caterina, A. Michael., et al.(1997). The capsaicin receptor: a heat‐activated ion channel in the pain pathway. Nature. 389, 816‐824.

Ref. ② : Andolfo, Immacolata., Alper, L. Seth., Lolaxcon, Achille., (2022). Nobel prize in physiology or medicine 2021, receptors for temperature and touch: Implications for hematology. American Journal of Hematology, 97(2)., 168-170

7-2. TRPV1の発現と機能

TRPV1の身体での機能に関して、Yaroslav M.Shubaはレビューを報告しています。

Diagram of TRPV1 expression and function in various tissues. GPCR – G protein-coupled receptor, NTKR – neurotrophic tyrosine kinase receptor, ASM – arterial smooth muscle, SkM – skeletal muscle, BAT – brown adipose tissue, WAT – white adipose tissue, IBD – inflammatory bowel disease.

【出典】Shuba, et al. Beyond Neuronal Heat Sensing: Diversity of TRPV1 Heat-Capsaicin Receptor-Channel Functions

上記に示します様に、TRPV1は身体の至る所に存在し様々な薬理作用を示します。

Ref. : Shuba, M. Yarosalav., (2021). Beyond Neuronal Heat Sensing: Diversity of TRPV1 Heat-Capsaicin Receptor-Channel Functions. Frontiers in Cellular Neuroscience, 14, 612480

8.トピックス:近年の研究

8-1. 抗肥満効果が期待できる。

身体には白色脂肪と褐色脂肪の2種類の脂肪組織があります。白色脂肪は皮下や内臓周辺に存在し、余剰のエネルギーを中性脂肪として蓄える働きがあります。一方で褐色脂肪は肩甲骨や腎周囲に存在し、白色脂肪の脂肪を燃焼して熱を産生します。熱の産生は褐色脂肪のミトコンドリアに存在する脱共役タンパク質(Uncoupling Protein 1 = UCP1 )が担っています。つまり、UPC1の量が多いほど中性脂肪は燃焼しやすくなります。


白色脂肪          褐色脂肪

A: Western blot analysis of uncoupling protein 1 (UCP1) in the interscapular brown adipose tissue (BAT) mitochondria of mice administered vehicle [control (Cont)] or capsiate (Cst) every day for 2 wk. B: UCP1 content was calculated as counts per the amount of total protein estimated from the data of Western blot analysis. Values are means±SE; n = 4–5. *Significant difference between control and capsiate groups by Tukey’s multiple-comparison test (P < 0.05).

【出典】Masuda, et al. Upregulation of uncoupling proteins by oral administration of capsiate, a nonpungent capsaicin analog.

上図はMasudaらがカプサイシンをマウスに経口にて2週間投与した後のUCP1の量を測定した結果です。(capsiateはcapsaicinの類似体で辛みは少なくなっています。一方でCapsaicinと同様にTRPV1受容体に作用する事が知られています。)

 

結果はControl(対照群[非投与群])に比べて1.5倍のUCP1を発現しています。つまり、比較的長期の投与によって、褐色脂肪においてUCP1の量が増加し、その結果中性脂肪を燃焼して、抗肥満効果が期待できます。

Ref. ① Yoriko, Masuda., et al.(2003). Upregulation of uncoupling proteins by oral administration of capsiate, a nonpungent capsaicin analog. Journal of Applied Phisiology, 95(6),2480-2415

Ref. ② 岡崎優子. (2015). 脂肪燃焼組織・褐色脂肪の食品成分による活性化と抗肥満効果. 食品分析開発センターホームページ

8-2. Capsaicinはダイエットが期待できる。

Kimらの論文では、マウスにカプサイシンを経口投与して運動のパフォーマンスが上がった事を報告しています。

マウスにカプサイシンを経口にて投与した後に、専用のプールで7 liter/min.の流速にて泳がせてます。

この論文の中に興味深いデータの記載があります。

【出典】Kim, et al. Increase in Swimming Endurance Capacity of Mice by Capsaicin-induce Adrenal Catecholamine Secretion

グラフの縦軸に水泳の持続時間の延びを、横軸にCAP(Capsaicin)の濃度を示しています。実験はCAPを投与して2時間後、どのくらい水泳の持続時間が延びたかを測定しています。結果はCAPの濃度が10mg/㎏ body weightの時に水泳の持続時間が長くなり、CAPの濃度を15mg/㎏ body weightにあげると、持続時間は短くなりました。つまり、水泳の持続時間を延ばすにあたり、摂取するCAPには最適な濃度がある事が分かります。

【出典】Kim, et al, Increase in Swimming Endurance Capacity of Mice by Capsaicin-induce Adrenal Catecholamine Secretion

グラフの縦軸は血清中のAdrenalineの濃度を、横軸はCAP投与後の運動時間を示しています。

Adrenalineは副腎髄質から、交換神経が活性化した際に分泌されます。Adrenalineが血中に放出されると、①心臓や骨格筋の血管拡張(運動器官への血液供給量の増加)、②気管支平滑筋の弛緩(ガス交換効率の上昇)、③瞳孔拡大(感覚器官の感度の上昇)、④脂肪の分解(脂肪の分解による筋肉に血液とエネルギーの供給)、⑤感覚の麻痺、などを起こし、身体のパフォーマンスを高めます。

実験結果は、CAPの投与によってAdrenalineの分泌が高くなり、その効果は120分経過しても維持する事が判明しました。

まとめますと、最適なCAPの濃度で、適度に長い時間の運動によって、身体のパフォーマンスを上昇させる事が出来ます。つまり、④脂肪の分解によってダイエットを期待する事が出来ます。

「4.トウガラシの効果・効能」に記載しました、4-4.血流改善、4-5.発汗、4-6.美肌、もAdrenalineの関与が高く、それらの効果・効能も、同様の機序が働いていると考えられます。

Ref. : Kim,Kyung-Mi., Fushiki, Tohru., (1997). Increase in Swimming Endurance Capacity of Mice by Capsaicin-induce Adrenal Catecholamine Secretion. Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 61(10), 1718-1732

9.参考

・日本薬局方収載生薬の学名表記について

・カプサイシンに関する詳細情報 農林水産省

・第十八改正日本薬局方

・薬用植物資源研究センター. 薬用植物総合情報データベース

・公益社団法人 東京生薬協会

・漢方・東洋医学の馬場薬局 ホームページ

・化粧品成分オンライン

・Woman excite eレシピ

・株式会社SUNAO製薬ホームページ

・唐辛子専門店ハクタカホームページ 唐辛子の効果・効能~カプサイシンによる健康効果と効能|メリットだけでなくデメリットも紹介~

・専門家に聞く!カプサイシンは肌に効果あり?なし?美肌に導く摂り方は?

・富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 54-55

 

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