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生薬解説【オウバク】        基本情報・学術トピックス

オウバク(黄柏) 英名:Phellodendron Bark ラテン名:Phellodendri Cortex

基原植物:Phellodendron amurense Ruprecht又は Phellodendron chinense Schneider(Rutaceae みかん科)

オウバクの基原植物はキハダ(黄檗、黄蘗、黄膚、黄柏、黄肌)と呼ばれ、15~25mの落葉高木です。内樹皮が鮮やかな黄色を呈している事から黄肌と書き、この内樹皮を乾燥させたものが生薬のオウバクです。民間薬として「陀羅尼助(だらにすけ)」(奈良)、「百草(ひゃくそう)」(信州)、「煉熊(ねりくま)」(山陰)などと呼ばれ古くから使用されています。山岳宗教と結びついて修験者が携行して全国に広がりました。

生薬用途以外に黄色の染色剤として用いられます。飲食物としては強い苦味が特徴なので利用は少ない様です。

1.基原

1-1.基原

本品はキハダPhellodendron amurense Ruprecht又は Phellodendron chinense Schneider(Rutaceae)の周皮を除いた樹皮である。本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,ベルベリン[ベルベリン塩化物(C20H18ClNO4:371.81)として] 1.2%以上を含む。

1-2.調製

12~20年の木を7~8月頃に伐採し、外側のコルク層を剥がし天日で乾燥させます。

キハダの花

キハダの切り株

2.産地

2-1.日本

北海道,長野,群馬,福井,鳥取,広島、福島、富山、新潟など

縄文時代の遺跡から医薬品に使ったと思われる樹皮が出土されており、最古の生薬とされています。

2-2.中国

四川,雲南,陜西,甘粛,湖北省,東北地方,広西自治区など

中国最古の生薬学書『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)に収載されています。

2-3.その他

韓国、台湾など

3.主な成分

3-1.Berberine(ベルベリン)

                       (CAS No. 633-66-9)   【構造式:出典】Wikipedia ベルベリン

カウンターアニオンとして、塩化物イオン、硫酸イオンなどが知られています。強い抗菌作用があります。

3-2.Palmatine(パルマチン)

                                                                             (CAS No. 3486-67-7)   【構造式:出典】ChemFaces ホームページ

3-3.その他

Alkaloid:Magnoflorine、Phellodendrineなど

Terpene:Obakunone、Limoninなど

Steroid:β-Sitosterolなど

4.効能・効果

4-1.健胃・整腸作用

食べすぎや飲みすぎによる諸症状、膨満感、吐き下し、下痢などに効果があります。

4-2.殺菌作用

赤痢菌、淋菌、黄色ブドウ球菌などに対して効果があります。

4-3.消炎作用

打撲、捻挫、腫れ物などの外用薬として用いられます。

5.副作用

健胃・整腸作用が効きすぎて食欲不振、下痢になる事があります。

6.副作用の回避

副作用の多くは過剰摂取に起因しています。過量の服用や長期使用には注意が必要です。

7.オウバクの多様な研究

Biological activity of Phellodendron bark

オウバクの主な研究分野をまとめました図になります。

Ref . : Yue Sun, Gerge Binh Lenon, Angela Wei Hong Yang. (2019). Phellodendri Cortex: A Phytochemical, Pharmacological, and Pharmacokinetic Review. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2019

8.トピック:近年の研究

Kimらの、オウバクの主成分であるベルベリンの紫外線によるMMP-1発現の抑制効果とⅠ型プロコラーゲン発現の促進効果に関する研究論文を紹介致します。

8-1.紫外線と光老化

8-1-1.皮膚の構造

【出典】持田ヘルスケア 紫外線による肌への影響と日焼け時のケア

人の肌は大きく分けて表皮、真皮、皮下組織で構成されています。

表皮に存在しているメラノサイトはメラニンを生成し、紫外線のダメージから肌を守っています。しかし、このメラニンが過剰に産生するとシミや色素沈着を生じてしまいます。

真皮は主に、繊維芽細胞、コラーゲン(膠原線維)、エラスチン(弾性線維)から構成されています。コラーゲンとエラスチンは真皮に張りめぐらされ、肌に弾力を与えています。

皮下組織は脂肪細胞とゆるい結合組織から成り立ち、主に外部からの衝撃吸収、エネルギーの貯蔵、正常な体温の維持を役割としています。

8-1-2.皮膚と紫外線

【出典】「光老化」啓発プロジェクト委員会

太陽光線は上記の様に様々な光から成り立っています。この中で皮膚の老化に影響を与えるのは紫外線と近赤外線で、波長が長い方が皮膚の奥まで入ります。

【出典】「光老化」啓発プロジェクト委員会

紫外線はUVAとUVBに大別されています。

波長が長いUVAは真皮のコラーゲンやエラスチンを変性させ、その結果、肌の弾力が失われ、しわやたるみが発生します。

波長の短いUVBはメラノサイトに影響を与え、ターンオーバーを乱してシミや色素沈着をおこします。

可視光の一部である近赤外線は、皮下組織に影響を与え、筋組織の破壊によるしわやたるみを起こします。

8-1-3.光老化

光老化とは、長年に渡り紫外線を浴び続け、そのダメージが蓄積されて起こる老化現象を指します。

8-2.UV照射したヒト真皮線維芽細胞における、BBRのMMP-1の発現抑制とⅠ型プロコラーゲンの発現促進

【用語説明】

*BBR:Berberine(ベルベリン Fig.1の構造式A)。

*human dermal fibroblasts:ヒト真皮繊維芽細胞。コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸と言った真皮の成分を作り出す細胞。

*MMP-1:肌に弾力性を与えてくれるⅠ型コラーゲンを分解する酵素。コラゲナーゼ。

*MMP-2:基底膜Ⅳ型コラーゲンを分解する酵素。ゼラチナーゼ。

*type I procollagen(Ⅰ型プロコラーゲン):真皮網状層を形成するコラーゲンの前駆体。

*EGCG(Epigallocatechin gallate):お茶に多く含まれるカテキンで強い抗酸化作用を有する。

8-2-1.BBRによるヒト真皮線維芽細胞におけるMMP-1の発現抑制効果とⅠ型プロコラーゲン発現促進効果

以下にBBRの各濃度におけるMMP-1の発現抑制効果とⅠ型プロコラーゲン発現促進効果の結果を示します。

【出典】Sangmin Kim, Jin Ho Chung. Berberine prevents UV-induced MMP-1 and reduction of type I procollagen expression in human dermal fibroblasts.

Fig. 1. (A)はBBRの構造式です。

Fig. 1. (B)はBBRの各濃度におけるMMP-1の発現率を示しています。この結果よりBBRはMMP-1の発現を濃度依存的に抑制している事が分かります。

Fig. 1. (C)はBBRの各濃度におけるI型プロコラーゲンの発現率を示しています。この結果よりBBRはⅠ型プロコラーゲンの発現を濃度依存的に促進している事が分かります。

つまり、オウバクの主成分であるベルベリンには、コラーゲンの分解を抑制し、更にコラーゲン産生を促進する事が分かりました。

8-2-2. UV照射したヒト真皮線維芽細胞における、BBRのMMP-1の発現抑制とⅠ型プロコラーゲンの発現促進

【出典】Sangmin Kim, Jin Ho Chung. Berberine prevents UV-induced MMP-1 and reduction of type I procollagen expression in human dermal fibroblasts.

Fig. 2. (A)(B)はUV照射したヒト真皮線維芽細胞における、BBR添加によるMMP-1の発現抑制とⅠ型プロコラーゲン発現促進の結果を示します。

(A)よりUV照射した時、MMP-1の発現がコントロールの約2倍となりましたが、BBRを添加する事によって、発現率はコントロールと同等まで抑制された事が分かります。

(B)よりUV照射した時、Ⅰ型プロコラーゲンの発現がコントロールの約1/2となりましたが、BBRを添加する事によって、コントロールとほぼ同等まで促進された事が分かります。

つまり、オウバクの主成分であるベルベリンには、UV照射によるコラーゲン分解を抑制し、更にコラーゲン産生を促進する事が分かりました。

8-2-3. ECGCとBBRによる、ヒト真皮線維芽細胞におけるMMP-1の発現抑制効果とⅠ型プロコラーゲン発現促進効果の比較

Fig. 2. (C)(D)はヒト真皮線維芽細胞における、BBR及びEGCGの添加によるMMP-1の発現抑制とⅠ型プロコラーゲン発現促進を比較した結果を示します。

(C)よりEGCG、BBR共にMMP-1の発現の抑制が認められ、比較すると、EGCGの方が抑制効果は高い結果となりました。

(D)よりEGCG、BBR共にⅠ型プロコラーゲンの発現の促進が認められ、比較すると、BBRの方が促進効果は高い結果となりました。

オウバクの主成分であるBBRには、強い抗酸化活性を有するECGCと同様に、コラーゲン分解を抑制し、更にコラーゲン産生を促進する事が分かりました。

8-2-4.オウバクの老化抑制効果

BBRにはMMP-1の発現抑制効果とⅠ型プロコラーゲンの発現促進効果がある事がわかりました。今後の研究によって、ベルベリンを主成分とするオウバクの抗老化作用が期待されます。

Ref. ①:Sangmin Kim, Jin Ho Chung. (2008). Berberine prevents UV-induced MMP-1 and reduction of type I procollagen expression in human dermal fibroblasts. Phytomedicine, 15(9), 749-753

Ref. ②:持田ヘルスケア株式会社 紫外線による肌への影響と日焼け時のケア

Ref. ③:「光老化」啓発プロジェクト委員会

Ref. ④:オッペン化粧品株式会社 シワ・たるみはなぜできる?

Ref. ⑤:日本化粧品技術者会 ホームページ

Ref. ⑥:株式会社 Nalelu ホームページ

9.引用文献

日本薬局方収載生薬の学名表記について

第十八改正日本薬局方

Metabolomics JP ホームページ

株式会社ウチダ和漢薬 生薬の玉手箱

福田龍株式会社 ホームページ

養命酒製造株式会社 元気通信 生薬百選

生薬詳細-薬用植物総合情報データベース

公益財団法人 東京生薬協会 オウバク

ヨミドクター(読売新聞) 薬と薬草のお話vol.55 キハダと黄柏(おうばく)

長野県製薬株式会社 ホームページ キハダ(百草丸)

武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園:キハダ

富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 208-209

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