モッコウ(木香)
英名:Saussurea Root ラテン名:Saussurea Radix
基原植物:Saussurea lappa Clarke (Compositae キク科)
モッコウは、インド北部の標高2000m以上の高山地帯で自生しています。高さが1m以上の多年草本で、花は7~9月にアザミに似た暗紫色の毬の様な花が咲きます。名称は根に、蜜のような特異な芳香を有している事に由来しています。生薬以外にはお香の薫香料や、虫よけの防香として利用されています。
中国などでは木香として、「青木香」(Aristolochia debilis Siebold et Zucc)及び「南木香」(Aristolochia yunnanensis Franch)が用いられることがあります。これらには毒性の高いアリストロキア酸*が含有しているので注意が必要です。
一方、日本薬局方で規定されているモッコウ(Saussurea lappa Clarke)の根には、アリストロキア酸は含有していません。
*アリストロキア酸:重篤な腎症、泌尿器のがん、肝胆道がんなどの発症の危険因子を持つ化合物。
Ref. 食品安全委員会 食品安全総合情報システム
モッコウの花
1.基原
1-1.基原
本品はSaussurea lappa Clarke (Compositae)の根である。
1-2.調製
2年目の10月頃に根部を収穫しひげ根を除去した後に水洗、風乾し,次いで温風乾燥機(約50℃)で仕上げ乾燥を行います。
2.産地
2-1.日本:北海道(名寄市など)
野生種のモッコウは絶滅の恐れが高く、ワシントン条約によって国際間の取引が規制されています。日本で生薬として使用されるモッコウは、中国雲南省の栽培品を使用しています。
日本では冷涼な気候の北海道で試作栽培されています。
飛鳥時代後期から奈良時代初期頃に渡来しました。奈良東大寺の正倉院には、日本最古と言われているモッコウが所蔵されています。
2-2.インド:カシミール地方
原生地です。野生種のモッコウは分布域が狭く自然の状態では絶滅が危惧されています。
2-3.中国:雲南省、四川省、浙江省、江蘇省、安徽省など
「神農本草経(中国最古の薬物学書)」の上品に収載されています。
3.主な成分
3-1.Aplotaxene(アプロタクセン)
(CAS No. 10482-53-8) 【構造式:出典】J-GLOBAL ホームページ
3-2.Costunolide(コスツノリド)
(CAS No. 553-21-9) 【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ
3-3.Alantolactone(アラントラクトン)
(CAS No. 546-43-0) 【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ
3-4.Dehydrocostuslactone(デヒドロコスツスラクトン)
(CAS No. 477-43-0) 【構造式:出典】J-GLOBAL ホームページ
3-5.その他
・Sesquiterpenoids:Mokkolactone、Dihydrocostunolide、α-Ionone 他
・Triterpenoids:Betulin 他
・Sterols:Stigmasterol 他
4.効能・効果
健胃・整腸作用(芳香性健胃薬)
嘔吐、腹痛、下痢、消化不良、胃下垂を改善します。
5.副作用
報告例は少なく、モッコウが配合されている漢方の添付文書を参考にしてください。
6.副作用の回避
副作用の多くは過剰摂取に起因しています。過量服用や長期使用には注意が必要です。
7.モッコウの多様な研究
Figure:Biological activity of Saussurea lappa Clarke
Figureにモッコウの主な研究領域を示します。副作用が少ない事から、多くの疾患への適応が期待されます。
8.トピックス:近年の研究
8-1.副作用の少ない抗乳癌物質
モッコウは抗乳癌活性を有している事が知られていますが、あわせて副作用が少ない事が確認されました。
8-2.モッコウの成分であるDehydrocostus Lactoneによる椎間板変性の改善効果
モッコウの成分の1つであるDehydrocostus Lactoneは、NF-κB活性およびMAPK伝達系を阻害し、髄核細胞の老化を抑制しました。更に椎間板変性の改善効果が確認されました。
9.引用文献
・漢方知識「生薬単」初版, 226-227