愛用者の声

「きれいで、清潔で、きもちのいい」銭湯を守り続けていくために

昭和8年(1923年)に高円寺で創業し、現在も多世代の利用者によって賑わう老舗銭湯「小杉湯」。国登録有形文化財に登録された歴史ある建物を守り続けてきた小杉湯は、「きれいで、清潔で、きもちのいい、お風呂」という言葉を掲げ、日々安心して通うことができる銭湯の運営。

2020年3月には、小杉湯の隣に位置するコワーキングスペース「小杉湯となり」をオープンし、小杉湯のファンによって作られた株式会社銭湯ぐらしが運営を開始しました。また、SNSでの情報発信や小杉湯を利用したイベントの企画、企業や地方との様々なコラボレーションなど、幅広い取り組みを通して、銭湯のあたらしいあり方を提示しています。

小杉湯では、洗浄剤や薬剤をはじめ、先代の頃から数多くの健美薬湯の製品をお使いいただいています。三代目として代表を務める平松佑介さんに、小杉湯の多様な活動の背景にある、銭湯を守り続けていくことへの思いを、健美薬湯代表の松田宗大が伺いました。


 

「きれいで、清潔で、きもちのいい閉じない場所としての銭湯

 

平松さん:

小杉湯は昭和8年創業で、戦後に新潟から出てきた僕のおじいちゃんとおばあちゃんが、飲食業で貯めたお金でこの場所を買い取り、事業を引き継ぎました。その後、僕の父親が引き継ぎ、2016年からは僕が三代目として仕事をしています。

健美薬湯さんとのお付き合いは父親の代から続いていて、小杉湯に限らず、銭湯業界の中でお馴染みの存在だと思います。僕が引き継いだ時点でも、健美薬湯の製品だとは知らずに使っていたものが多かったですね。

 

平松佑介さん / 小杉湯三代目 

平松さん:

小杉湯には、「きれいで、清潔で、きもちのいい、お風呂」という家訓があります。僕は日々、昨日よりもきれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かしたいという想いで仕事をしています。公衆浴場である以上はそのことがとにかく大事だと思っています。

仕事をしていくうちに、どんどん使う薬品や洗剤にこだわるようになってきて、先日製品についてお問い合せしたところ、松田社長が直々に小杉湯まで来ていただけたことには驚きました。薬剤についての相談はもちろん、一緒に掃除までしていただいて、僕もスタッフも感動しました。

 

 

松田:

僕も小杉湯のみなさんの積極的に学ぼうとする姿勢にとても感動しました。我々メーカーとしても、きれいで清潔できもちのいい空間であることが、お風呂場の基本だと思っています。

このレベルできれいにされている小杉湯は本当にすごいなと思いますし、スタッフの方々がいかに掃除を大切にされているのかを実感しました。

 

 

平松さん:

小杉湯のお客さんは、僕のおじいちゃんの代から来ていただいている方や、父親の代、そして僕の代になってからの方もいるので、特定の世代を対象とした商売ではないんです。

僕らは銭湯を「環境」だと定義していて、公衆浴場としての銭湯が誰に対しても閉じない場であるために、まずはきれいであることが大事だと思っています。健美薬湯は、浴槽の汚れを落とすための洗剤はもちろん、日々のメンテナンスのための薬剤や、汚れの種類ごとに製品があったりと、とにかく種類が豊富なのがいいですね。

 

 

松田社長とお話していると、洗剤についての知識はもちろん、化学を理解されていることを感じます。昔ながらのやり方としては、中性洗剤でこすって落とすのが基本で、もちろんそれも大事なんですが、吹きかけるだけで汚れが落ちる薬剤もあるので、こすりすぎてメッキを剥がしてしまわないためにも、化学の知識は必要だなと思いました。

 

 

松田:

中性洗剤を使っていれば基本的に安全で問題はないんですが、酸とアルカリは、適切に使えば労力をかけずに汚れを落とすことができます。いま求められているナチュラルでオーガニックのものも大切にしながら、環境に配慮しつつ化学的アプローチによって清潔さを保つことも重要だと考えています。

健美薬湯で製造販売しているお風呂屋さん専用の洗剤は、市販されているものよりも濃度が高いので、取り扱い方をご理解いただくために、メーカーとしてきちんとご説明する責任があります。小杉湯のお湯は井戸水ですが、温泉水や水道水、硬水、軟水など、銭湯の水質によって汚れ方は千差万別で、適切な薬剤とのマッチングが必要だと考えています。

 

 

平松さん:

小杉湯のタイルは目地が白いので赤カビ・黒カビが目立ちやすく、鏡についた鱗やカランのカルキなどの細かいところは、日々の掃除だけだとなかなか落ちないんですね。

家業が中心の銭湯では、おじいちゃんがやっていた掃除の仕方をそのまま引き継いでいるケースが多く、僕も仕事をはじめてから衛生管理についていろいろと調べていたんですが、ネット上には情報がなくて、他の銭湯がどんなふうに掃除しているかを知る機会が少ないんです。

なので、僕らが勉強したことや試してみた情報をもっと共有したいなと思っていて、同業の銭湯やスーパー銭湯といった施設さんだけではなく、一般の人にも知ってもらえる機会をつくりたいとも考えています。

1年ぐらい前までは営業が終わった後に浴室の清掃をしていたんですが、情報を取り入れやすく、いろんな人が関わってもらえる朝の時間帯に切り替えて、より良くするための体制を整えています。

 

 

変わらない場所を守るために、変わり続けなくてはならない

 

松田:

小杉湯は「note」での情報発信をはじめ、自分たちのやり方をオープンにされていて、いままでの銭湯にはなかった動きだと感じています。

健康標語「あとは寝るだけ」を掲げたグッズの展開や、小杉湯のお客さんが集まって生まれた「株式会社銭湯ぐらし」が、銭湯に関わる商品・グッズを販売するなど、ユーザーの方々への提案のされ方も新鮮です。

 

東京では若い方々がいろんな銭湯に通うようになってきていますが、その中心的な存在が小杉湯だと思っています。

小杉湯では、銭湯の存在を「日常の連続に溶け込んだ、些細な幸せ=ケの日のハレ」という言葉で定義されていて、核となるコンセプトを端的に言語化されていてすばらしいなと思うんですが、この言葉はどのように生まれたんですか?

 

平松さん:

小杉湯を引き継いでから痛感したのは、銭湯の経営はそもそも続けるのが難しいということなんです。銭湯はビジネスモデルとしては非効率で、外部環境の影響を受けやすい。

さらに、文化財でもある小杉湯を維持するために、年間で4〜500万円ほどの修繕費がかかっています。ここ数年はコロナ禍と、エネルギー高騰の影響も大きいです。

 

最近は若い世代の方が昔ながらのものに注目してくれていますが、事実銭湯は減ってきているし、街の本屋さんや喫茶店も閉まっている状況です。続けるためには、古き良き伝統といったノスタルジーだけじゃなくて、ちゃんと産業にしていかないといけない。これからの時代に銭湯が必要なことを伝えるためにも、きちんと言語化して社会に発信していかないといけないと考えたんです。

 

 

もちろん、小杉湯にこれだけいろんな人が集まり、コミュニティが生まれているのは、90年間変わらずに、この建物で同じ商いをやっているからこそだと思います。

小杉湯を国登録重要文化財として登録したのは、人の寿命よりも長く存在しているこの建物が、変わらない場所にあることが重要だと考えているからなんです。僕が三代目として継承した一番の目的は事業を続けることであり、僕の子どもの世代、さらに次の世代まで残したいと思っています。

「いろんなことやっていますね」とよく言われるんですが、それは現状のままでは無理だという危機感があるからで、変わらずにいるためには変わり続けなきゃいけないんです。

 

 

松田:

僕もコロナ禍でさまざまなことを痛感しました。伝統を守ることはもちろん大事ですが、同時に変わるために何かしていかないと、未来がどんどん閉ざされていく感覚があります。

コミュニティの人々が応援するお店に小杉湯がなっているのは、本当にすごいことだと思います。平松さんのお人柄や、小杉湯のこれまでの歩みがあってこそですが、伝統にあぐらをかかずに、常に新しい姿を見せてくれているのが素敵だなと。

銭湯業界は後継者不足の問題がありますし、発展していくためには、銭湯を残し、次の時代につないでいくことを、メーカーである自分たちが率先して行動するべきだと考えています。温浴施設の方々と一緒に、この業界の未来を歩んでいくためのことを実行していきたいです。

 

銭湯を中心とした「大きな家」がコミュニティをつないでいく

平松さん:

いま小杉湯では、アルバイトとして30人ぐらいの方が働いていて、3名の正社員を含めて10〜20代のスタッフが多いんですが、「小杉湯に救われたから、恩返しがしたい」とよく言われるんです。

これまでこの仕事をしながら、銭湯のような場所がいま求められていて、これからもっと必要になるだろうなということを感じています。SNSの影響もあり、自己肯定感の高さが社会において重要になってしまったことで、若い世代を中心に、他者との比較によって苦しんでいる人が多いと思うんです。

 

 

社会の中で「受容感」みたいなものが失われてきてしまっている時に、銭湯という場所が、その感覚を取り戻せるんじゃないかと考えています。僕らは「サイレントコミュニケーション」と呼んでいるんですが、この場所に来れば、なんとなくお客さん同士の目があって、挨拶するようになったり、たわいもない話をするようになったりするんですね。

小杉湯にはお風呂に入ることを目的に来るんですが、サイレントなコミュニケーションが生まれることで、自分と社会との間にある「ちょうどいい」距離を感じることができるのではないかと思います。多世代のお客さんと一緒にお風呂に入るこの場所は、プライベートとパブリックのあいだにあるものなんじゃないかなと。

 

 

中には、小杉湯があるからという理由でここに引っ越してきてくる人もいて、半径500mぐらいの中でアパートを借りて通っているスタッフもいます。小杉湯を中心に、緩やかに知っている顔同士の関係性が生まれていますし、この半径500mぐらいを「大きな家」だと捉えるなら、小杉湯は家の中のお風呂であり、自分の住んでいる部屋は寝室だという考え方ができるようになってきます。

 

 

松田:

たしかに、そう捉えると銭湯の役割がしっくりきますね。街の中に銭湯があれば、大きな家がいくつもあることになります。地域によって、高齢者が中心の「家」もあれば、多世代が住んでいる「家」もある。銭湯という場所を通して、コミュニティごとに地域性が感じられるとすれば、これからも銭湯を残さなくてはいけない大きな理由のひとつになるかもしれません。

 

 

平松さん:

そうですね。もともと銭湯はその地域に住む人たちの公衆衛生のためにつくられた場所なので、銭湯の存在そのものが地域性の一部なんだと思います。僕らは小杉湯を続けることを原動力に活動していますが、まちづくりや都市開発においても、銭湯の存在が重要だということを発信していきたいです。

 

松田:

僕らは「日本を温める。」というミッションを掲げているので、銭湯を中心とした地方創生や地域の活性化にも取り組んでいきたいと考えています。銭湯が一軒なくなってしまうだけで、そこで暮らす方々の生活の一部が失われてしまうことになるので、銭湯の存在意義を社会に発信していく必要性を感じます。

 

 

小杉湯の取り組みが先駆けとなって、これからの銭湯業界のあたらしいスタンダードが生まれていくんじゃないかと感じています。僕らも温浴施設のこれからのあり方について考えながら、自分たちにできることを実践していきたい。これからも平松さんとは、さまざまな活動をご一緒できればと考えています。

Profile

小杉湯三代目
平松佑介さん

昭和8年に創業し、国登録有形文化財に指定された老舗銭湯「小杉湯」の三代目。空き家アパートを活用した「銭湯ぐらし」、オンラインサロン「銭湯再興プロジェクト」など、銭湯を基点にした繋がり、また、さまざまな企業や団体とコラボレーションをした独自の企画を生み出している。2020年3月に複合施設「小杉湯となり」がオープン。