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生薬解説【トウキ】        基本情報・学術トピックス    

トウキ(当帰) 英名:Japanese Angelica Root ラテン名:Angelica Radix

基原植物:Angelica acutiloba Kitagawa又はホッカイ トウキ Angelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikino (セリ科 Umbelliferae)

トウキの基原植物は多年草で、草丈60~90 cm、根は肥厚します。

学名「Angelica」の語源は「Angel」で、心も姿も美しいと言う意味があります。また、生薬以外の使用として、細い根はキンピラに、葉は天ぷらにして食べる事ができます。また、クリーム・乳液・化粧水などの化粧品、入浴剤などにも使用されています。

トウキの花

1.基原

1-1. 基原

本品はトウキAngelica acutiloba Kitagawa又はホッカイ トウキ Angelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikino (Umbelliferae)の根を,通例,湯通ししたものである。

1-2. 調製

①水洗いをせずに、そのまま屋外に約2ヵ月間、稲架(はさ)掛けをする。

②約70℃のお湯に浸けた後、約40℃のお湯に浸けて転がしながら板の上で揉む。次いで水洗いをして形状を整える。

③再度、稲架掛けをして乾燥させる。                             *稲架掛け:束ねて自然風と天日で干す事(写真は稲)

2.産地

2-1.  日本

奈良県産のものを「大和当帰」、北海道産のものを「北海当帰」と呼ばれています。流通の多くは北海当帰です。

2-2. 中国

涼しい高原に生息しています。「唐当帰」と呼ばれています。

2-3. 西洋

北欧や東欧の山地に生息しています。「西洋当帰」と呼ばれています。

3.主な成分

3-1.  (Z)-Ligustilide(リグスチリド)

(CAS No. 4431-01-0)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

アルキルフタリド類。

主な効果:血管拡張、冷え性の改善、美白効果などが知られています。

3-2. 3-Butylphthalide(ブチルフタリド)

(CAS No. 6066-49-5)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

アルキルフタリド類。

3-3.  Scopoletin(スコポレチン)

(CAS No. 92-61-5)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

クマリン誘導体。

主な効果:抗高血圧症、抗炎症、鎮痛作用などが知られています。

3-4.  Umbeliferone(ウンベリフェロン)

(CAS No. 93-35-67)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ

クマリン誘導体。

主な効果:鎮痛作用、抗炎症作用などが知られています。

3-5. その他

パルミチン酸、ブチリデンフタリド、ニコチン酸、ビタミンB群など

4.効能・効果

漢方では同様の効能・効果を持つセンキュウ(セリ科)と組み合わせて処方される事が多い様です。

4-1. 生理不順、生理痛、産後の肥立ち、妊娠中の体調不良、更年期障害等の婦人科系疾患の改善

「婦人病の聖薬」と呼ばれています。女性ホルモンのバランスを整える事によって、婦人病疾患を改善します。

4-2. 補血作用

補血とは「血液を造り出して補う事」を指します。補血作用によって貧血、冷え性、疲労、病後の体力低下の改善をします。また前述の婦人科系疾患の改善にも由来しています。

5.副作用

5-1. 胃腸障害

食欲不振、胃もたれ、吐き気などの胃腸障害を引き起こす事があります。

5-2.   補血の過剰作用

過剰の摂取によって、血流量が過度に増え、耳鳴りを起こす事があります。

6.副作用の回避

副作用の多くは過剰摂取に起因しています。過量服用や長期の使用には注意が必要です。

7.トウキの多様な研究

Figure: Biological activities of Angelica acutiloba Kitagawa

トウキは、「4.効能・効果」でもご紹介した様に、婦人病疾患の改善や補血作用が知られるところですが、Google Scholarの調査では、さらに多くの薬理作用が研究対象となっている事が分かります。

Ref. 調査:データベース Google Scholar

調査方法:検索ワード「Angelica Acutiloba」+「薬理作用」

調査年月日:2023年6月14日

8.トピックス:近年の研究

8-1.  メタボリックシンドロームとは?

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、内臓脂肪面積と、脂質代謝異常、高血圧、高血糖が組み合わさり、動脈硬化になる可能性が高くなり、その結果、種々の疾患を起こしやすくなる病態を指します。

Figure: Metabolic syndrome-associated disorder

8-2.  メタボリックシンドロームの診断基準

脂肪型肥満(内臓脂肪面積≧100㎠(腹囲 男性≧85㎝、女性≧90㎝))と下記3項目の内、2項目以上を合併した状態が診断基準となります。

①脂質異常

以下のいずれか、もしくは両方が該当する場合

・高トリグリセライド血症:中性脂肪≧150㎎/dL

・低HDLコレステロール血漿:HDLコレステロール<40㎎/dL

②高血圧

以下のいずれか、もしくは両方が該当する場合

・収縮期(最大)血圧≧130㎜Hg

・拡張期(最小)血圧≧85㎜Hg

③高血糖

・空腹時高血糖値≧110㎎/dL

8-3.   トウキによる高血圧と高血糖の改善

ここでは、Watanabeらの、メタボリックシンドロームの診断基準となっています「高血圧と高血糖の改善」に関する研究を紹介します。

8-3-1.  降圧作用(高血圧の改善)

【出典】Yusuke Watanabe., et al. Angelica acutiloba Exerts Antihypertensive Effect and Improves Insulin Resistance in Spontaneously Hypertensive Rats Fed with a High-Fat Diet

Fig. 1. は縦軸に収縮期血圧(SBP)を、横軸は摂取日数を示しています。コントロールに対して、高脂肪食(HFD)を与えた高血圧自然発症ラット(SHR)と、さらにトウキ抽出物(AAE)を同時に摂取したラットの収縮期血圧を示したグラフです。高脂肪食を与えたられたラットは、日を追うごとに血圧が上昇していますが、一方、トウキ抽出物を与えたラットの血圧上昇は部分的ではありますが有意に抑えられている事が分かります。この結果からトウキ抽出物はメタボリックシンドロームの一因である高血圧の改善作用を有する事が示されています。

Watanabeらは、種々の検討から、その機序を下記のデータから推測しています。

【出典】Yusuke Watanabe., et al. Angelica acutiloba Exerts Antihypertensive Effect and Improves Insulin Resistance in Spontaneously Hypertensive Rats Fed with a High-Fat Diet

Fig. 3. は、縦軸に視床下部のアンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡに変換する酵素(アンジオテンシン変換酵素(ACE))の活性を示しています。発現したアンギオテンシンⅡは血圧の上昇に関与しています。このグラフは高脂肪食を食べさせたラットでも、トウキ抽出物を同時に摂取させた事によって、アンギオテンシン変換酵素の活性は抑えられている事が分かります。

つまり、Fig. 1. で示されている降圧作用は、Fig. 3. の結果から、アンギオテンシン変換酵素の活性が抑えられる事によるものと推測する事が出来ます。

8-3-2.  インスリン抵抗性の改善による高血糖の抑制

【出典】Yusuke Watanabe., et al. Angelica acutiloba Exerts Antihypertensive Effect and Improves Insulin Resistance in Spontaneously Hypertensive Rats Fed with a High-Fat Diet

グラフa)に関して、縦軸は血糖値を示しています。高脂肪食を食べたラットの血糖値は上昇していますが、トウキ抽出物を同時に摂取すると、コントロールとほぼ同じのレベルまで血糖値が下がる事が分かります。

グラフb)に関して、縦軸は血中のインスリン濃度を示しています。高脂肪食を食べたラットの血中インスリン濃度は上昇していますが、トウキ抽出物を同時に摂取したラットは、コントロールとほぼ同じレベルまでインスリンの濃度が下がる事が分かります。

ここで、インスリン抵抗性の指標の一つとしてHOMA-IRが知られています。HOMA-IRは血糖値とインスリン濃度から算出する事が出来、値が高い方ほどインスリン抵抗性があると判断する事が出来ます。グラフc)は、HOMA-IRを示しています。グラフは高脂肪食を食べたラットのインスリン抵抗性(HOMA-IR)は高い事が示されています。一方でトウキ抽出物(AAE)を同時に摂取する事によってインスリン抵抗性(HOMA-IR)は通常値まで下がる事が示されています。

Watanabeらは、種々の検討から、その機序を下記のデータから説明しています。

【出典】Yusuke Watanabe., et al. Angelica acutiloba Exerts Antihypertensive Effect and Improves Insulin Resistance in Spontaneously Hypertensive Rats Fed with a High-Fat Diet

Fig. 5. はTNF-αの遺伝子が発現する事に対するトウキ抽出物の摂取の影響を示しています。TNF-αは炎症を起こすサイトカインですが、インスリン抵抗性の引き金にもなると考えられています。高脂肪食を食べさせたラットは、TNF-αの遺伝子を多く発現しますが、トウキ抽出物を同時に摂取させた事によって、TNF-αの遺伝子はほとんど発現しない事が示されています。つまり、Fig. 4. で示されているインスリン抵抗性が抑えられている要因は、Fig. 5. で示されているTNF-αの遺伝子がほとんど発現しない事に起因すると推測する事が出来ます。

略号

AAE:Angelica acutiloba extract:トウキ抽出物

SBP:systolic blood pressure:収縮期(最大)血圧

HFD:high-fat diet:高脂肪食

NFD:normal-fat diet:通常脂肪食

NC:normotensive control:正常血圧、コントロール

SHR:spontaneously hypertensive rats:高血圧自然発症ラット 人為的処置なしに、加齢と共に自然に高血圧を発症するラット

ACE:angiotensin-converting enzyme:アンジオテンシン変換酵素 不活性なアンジオテンシンⅠを、活性を有するアンジオテンシンⅡに変換する反応を助長させる酵素。アンジオテンシンⅡによって血圧は上昇する。

HOMA-IR:空腹時血糖値と空腹時血中インスリン値から算出されるインスリン抵抗性の指標

TNF-α:脂肪細胞から分泌されるサイトカイン。TNF-αはインスリン抵抗性を上昇させる。

Ref. ①: 厚生労働省, e-ヘルスネット 生活習慣病予防, メタボリックシンドローム

Ref. ②: Watanabe, Yusuke., et al. (2022). Angelica acutiloba Exerts Antihypertensive Effect and Improves Insulin Resistance in Spontaneously Hypertensive Rats Fed with a High-Fat Diet. Pharmacology, 107(3-4), 188-196

9.引用文献

日本薬局方収載生薬の学名表記について

第十八改正日本薬局方

日本漢方生薬製剤協会. 生薬一覧

公益社団法人 東京生薬協会

薬用植物資源研究センター. 薬用植物総合情報データベース

熊本大学薬草園植物データベース

化粧品成分オンライン

2020トウキ国内生産拡大に向けた薬用作物の栽培技術

富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

証クリニック. 当帰の話

QLife漢方. 生薬辞典

当帰を含む漢方薬の効能と副作用とは?当帰含有の漢方薬を解説

トウキ(当帰)の生産と葉・根の原料販売|社会デザイン事業forregion|アミタグループ

若さの秘密ホームページ

大和当帰|根は薬・葉は食す

Nippon Oliveホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 20-21

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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