ショウキョウ(生姜) 英名:Ginger ラテン名:Zingiberis Rhizoma
基原植物:Zingiber officinale Roscoe(Zingiberaceae ショウガ科)
基原植物は熱帯地方に分布する多年草で高温多湿を好み、日本では7月~9月に生育します。
ショウキョウの味は極めて辛く、特異なにおいがあります。生薬以外に、飲食物として幅広く使われており、ショウガ湯(冷え症の改善、免疫力の向上、感冒の改善、食欲の改善)、寿司に添えるガリ(殺菌効果)、焼き魚のはじかみ(殺菌効果、魚の生臭さの改善)、薬膳料理、香辛料、漬物、お菓子、ジンジャーエールなど私達には身近な植物です。
ショウキョウの葉と根茎
備考:漢方で「生姜」とは,生の生姜(ショウガ)いわゆる「ヒネショウガ」(漢方では鮮姜ともいう)のことで,日局ショウキョウは漢方の「乾生姜」にあたります。
目次
1.基原
1-1. 基原
本品はショウガZingiber officinale Roscoe(Zingiberaceae ショウガ科)の根茎で、ときに周皮を除いたものである。
本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、[6]-ギンゲロール0.3%以上を含む。
1-2. 調製
10 ~ 11月に根茎を掘り取り、土砂と細根、コルク皮(外皮)を取り除いて乾燥する。
2.主な産地
2-1. 日本
高知、熊本、千葉など。
2-3世紀頃、中国より伝わり奈良時代には栽培が始まっていました。「古事記」にも記載されています。
2-2. 中国
貴州省,雲南省,浙江省 など。
中国最古の薬物書「神農本草書」に記載されています。
2-3. 熱帯地方
マナバル、モルッカ諸島など。
紀元前300-500年前から、保存食、医薬品として使用されてきました。
3.主な成分
3-1. 6-Gingerol(6-ジンゲロール)
【出典:構造式】近畿アグリハイテク
CAS No.23513-14-6
辛味成分
主な効果:消炎、発汗、去痰、保湿、消臭、解毒、鎮吐、嘔吐抑制、抗酸化作用
3-2. 6-Shogaol(6-ショウガオール)
【出典:構造式】近畿アグリハイテク
CAS No.555-66-8
辛味成分
主な効果:抗菌、血流改善、発汗、抗酸化作用、鎮痛、解熱、鎮吐、嘔吐抑制
6-ショウガオールは加熱による6-ジンゲロールの脱水反応によって生成する2次産物です。どちらの成分も同様の効能・効果を示しますが、ショウガオールの方が効能・効果は高い傾向にあります。
3-3. Zingerone(ジンゲロン)
【出典:構造式】近畿アグリハイテク
CAS No.122-48-5
香り成分
主な効果:抗菌、血行改善、発汗、抗酸化作用
3-4. Cineole(シネオール)
【出典:構造式】健康用語Web辞典
CAS No.470-82-6
香り成分
主な効果:抗菌、保湿、発汗、食欲の改善、消臭
3-5. Zingiberene(ジンギベレン)
【出典:構造式】Wikipedia
CAS No.495-60-3
香り成分
主な効果:消臭
精油中に30%含有しています。
3-6. その他
ゲラニオール、リモネンなどのテルペン類、アスパラギンなどが含まれています。
4.効能・効果
4-1. 冷え症の改善
ジンゲロン、ショウガオールが特定の生理活性物質の働きを抑制して、末梢血管の血流を改善し、冷え症を解消する効果があります。
4-2. 鎮吐・嘔吐抑制
ジンゲロール、ショウガオール、ジンゲロンが、嘔吐中枢を刺激するセロトニンの作用を抑制する事によって、二日酔い、癌化学療法などによる嘔吐を抑制します。
4-3. 抗菌活性
ショウガ抽出物は、細菌が外的要因から身を守るために作るバイオフィルムの形成を阻害する事によって抗菌活性を示します。
5.副作用
5-1. 胃腸障害
胃腸に強く働き過ぎることで、胃の不快感や胸焼け、下痢などを引き起こす事があります。
5-2. 冷え症の悪化
抹消血管を過剰に弛緩して、逆に熱放散をしてしまい、冷え症が悪化する事があります。
5-3. 妊娠中の胎児への負担
妊娠中の吐き気やつわりに関する報告がありますが、妊娠中の方は血圧や心拍を変化させてしまい、胎児の負担になる事が考えられます。念のために、主治医に相談しておくと安心です。
5-4. 過剰摂取で胆石を発症しやすくなる
胆汁排泄の促進を促し、その結果、体内のコレステロール値を低下させ、高脂血症予防、抗肥満に有効とされていますが、過剰に作用しますと胆石になりやすくなる事があります。
5-5. 抗凝固剤との併用による影響
機序は明らかにはなっていませんが、抗凝固剤との相互作用の可能性が懸念されています。
Ref. ① : NCCIH. National Institutes of Health Ginger
Ref. ② : 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 海外の情報
6.副作用の回避
副作用の多くは過剰摂取に起因しています。摂取の上限は、一日あたり生ショウガで10g(乾燥として5g)が推奨されています。
7.ショウキョウの多様な研究
Qian-Qian Maoらは2019年にショウキョウの研究に関するレビューを報告しています(Figure 1)。
Figure 1 【出典】Bioactive Compounds and Bioactivities of Ginger (Zingiber officinal Roscoe)
参考までにPubMed(National Library of Medicine)で検索を行った際の検索ヒット数も記載しました(20230111調査)
7-1. 抗酸化活性物質の研究
(検索語句:antioxidant _ Ginger 970件)
7-1-1. 抗酸化分子として
7-1-2. Nrf2転写因子の活性化
*NrF2転写因子:遺伝子の発現を制御する DNA 結合タンパク質。生体防御機構の一つ(ここでは酸化ストレスに対する防御)
7-2. 抗菌活性物質の研究
(検索語句:antimicrobial _ Ginger 573件)
7-2-1. バイオフィルム形成の阻害
*バイオフィルム:菌類の外的要因(薬剤、体内の免疫反応、環境変化など)から身を守るために作る生物膜
7-2-2. エルゴステロールの生合成の阻害
*エルゴステロール:菌類の細胞膜を構成するステロイド
7-3. 抗癌活性の研究
(検索語句:cancer _ Ginger 720件)
7-3-1. 癌細胞の増殖抑制
7-3-2. アポトーシスの誘導
*アポトーシス:プログラムされた細胞死
7-4. 抗糖尿病の研究
7-4-1. インスリン感受性(抵抗性)の改善、及び血漿グルコースの減少
*インスリン感受性(抵抗性):インスリンの作用が十分に発揮できない状態
*インスリン:膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる
*血漿グルコース:血中に含まれるブドウ糖(血糖)の量
7-5. 神経保護作用の研究
(検索語句:neuroprotection _ Ginger 77件)
7-5-1. ドーパミン作動性ニューロンの保護によるパーキンソン病の改善
*ドーパミン:神経伝達物質
*ニューロン:神経細胞
7-5-2. 海馬における細胞の保護によるアルツハイマー病の改善
*海馬:記憶や空間学習能力に関わる脳の器官
7-6. 呼吸器疾患の研究
(検索語句:respiratory _ Ginger 106件)
7-6-1. 気管支に存在するβ2受容体の刺激による気管支拡張
*β2受容体:気管支拡張、血管拡張、グリコーゲン分解、骨格筋収縮力増大、化学伝達物質遊離抑制に関わる受容体
7-7. 心血管保護の研究
(検索語句:cardiovascular _ Ginger 194件)
7-7-1. 心血管疾患の改善。血管平滑筋細胞の増殖阻害
*血管平滑筋細胞:収縮、弛緩によって血管径の調節を行う細胞
7-8. 嘔吐抑制・制吐作用の研究
(検索語句:nausea _ Ginger 335件、emetic _ Ginger 44件)
7-8-1. 5-HT受容体の作用を抑制
*5-HT受容体:嘔吐中枢を刺激する受容体
7-9. 抗肥満活性の研究
(検索語句:fat _ Ginger 156件、obesity _ Ginger 141件)
7-9-1. 3T3-L1細胞から脂肪細胞への分化の抑制、脂肪蓄積の抑制
*3T3-L1細胞:脂肪前駆細胞
7-10. 抗炎症活性の研究
(検索語句:inflammatory _ Ginger 670件)
7-10-1. プロスタグランジE2の抑制
*プロスタグランジンE2:炎症に関わるシグナル伝達を行う物質
7-10-2. PI3K/Akt/NF-κBの抑制
*PI3K/Akt/NF-κB:炎症応答に関わる遺伝子発現を行う細胞内シグナル伝達経路の一つ
8.トピックス:近年の研究
8-1. 冷え症の改善効果
8-1-1. ショウガ水摂取後、額の表面温度は上昇し、その効果は比較的長時間、持続されます。
【出典】ショウガ接種がヒト体表面に及ぼす影響
実験は、健常人女性12名(19~20歳)を対象に、22±0.5℃の恒温室で実施されました。試料は水150mLにショウガの乾燥粉末0.5gを懸濁させた溶液(ショウガ水)とし、水150mLを対照溶液として、それぞれ6名が経口にて摂取しました。上図は摂取後の額の表面温度の変化量を示したグラフです。縦軸は温度変化を、横軸は時間を示しています。このグラフからショウガ水の摂取によって、直後から温度は上昇し、その効果は1時間経過しても持続している事が示されました。結果として、ショウガ水を摂取する事によって、額の表面温度を上昇させる効果がある事が分かりました。また、その効果は1時間以上持続する事が分かりました。
Ref. : 藤沢史子.灘本知憲. et al. (2005). ショウガ接種がヒト体表面に及ぼす影響. 日本栄養・食糧学会誌. 58(1), 3-9.
8-2. 抗酸化作用
8-2-1. 細胞内ホメオスタシス(恒常性)の維持には、抗酸化物質が重要です。
細胞内ホメオスタシスの維持には、ラジカルによる生体防御と、ラジカルによる毒性発現のバランスが必要です。具体的には、活性酸素種由来のラジカルによる細菌やウイルスの侵入に対する生体防御機構と、このラジカルによるタンパク質の変性や過酸化脂質の生成による毒性発現とのバランスを示します。しかし、化学物質による汚染や紫外線の影響によってこのバランスが崩れると、生活習慣病の発症、細胞の老化やDNAの損傷など、健康を害してしまいます。そこで、毒性の低い植物由来の抗酸化物質の摂取が、健康維持にとって重要と考えられています。
8-2-2. ジンゲロール及びショウガオールの抗酸化作用は、ヒドロキシルラジカル誘発のルミノール発光の阻害によって確認できます 。
まず、ルミノール(Luminol)発光のメカニズムを下記に示します。
Figure 2 【出典】Chemiluminescence of Luminol. University of Bristol
ルミノール(Luminol)がアルカリ下で酸化を受けて、酸素原子を介して環状化合物となり、脱窒素の後、3-Aminophthalate* (3-APA*)になります。これは励起状態(物質の持つエネルギーが最も高い状態=不安定)となっており、基底状態(物質の持つエネルギーが最も低い状態=安定)になる時に、差異エネルギー(高い状態から低い状態になる時の差エネルギー)を放出して、それが発光と言う現象となります(Figure 2 )。
ジンゲロール及びショウガオールに抗酸化作用があれば3-APA*の発生が抑えられて、ルミノール発光が弱くなります。
Figure 3 Inhibition of hydroxyl radical elicited chemiluminescence (CL). The reaction was carried out in a mixture containing 50μL of 10mM in luminol (in PBS), 20μL of ferrous(Fe(II)) (100_M)–EDTA (500μM) complex, 20μL of 5%H2O2, and 10μL of gingerols and [6]-shogaol (in DMSO). The hydroxyl-induced luminol in CL during the first 1min was averaged. The inhibitory efficiency in response to the CL of vehicle control(DMSO) was calculated. Data represent the mean±SD (n = 10). *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001 compared to vehicle control. Post hoc LSD statistical analysis revealed that activities of all compounds were significantly different from each other and the activities of the same compound at different concentrations were significantly different from each other.
【出典】Comparative antioxidant and anti-inflammatory effects of [6]-gingerol, [8]-gingerol, [10]-gingerol and [6]-shogaol
Figure 3 のグラフは、ジンゲロール、ショウガオールの濃度に対して、その際のルミノール発光誘発率を示しています。ラジカル種が消失すると、発光誘発率は下がります。結果は、いずれの成分も発光誘発を阻害しており、ラジカル種が消失している事が分かります。つまり、抗酸化作用を確認する事が出来ます。
抗酸化作用は[6]-ショウガオールが最も高く、次いで [10]-ジンゲロール、[8]-ジンゲロール、[6]-ジンゲロールの順となっています。
(ジンゲロール、ショウガオールの名称の前に付く数字[6]、[8]、[10]は、炭素数の異なる類縁体を示しています。通常は[6]です。)
ref. ② : Fleming, Declan., Chemiluminescence of Luminol. University of Bristol
8-3. ショウガオールの美白に関する研究
Huey-Chun Huangらは2014年に、ショウガオールのメラニン生成抑制の機序に関する報告をしています。それはショウガオールが転写因子の働きを抑え、メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)(メラノサイトのチロシナーゼを活性化させる)によるメラニン生成を抑えると言うものです。
aP<0.05, bP<0.001
Figure 4 【出典】[6]-Shogaol Inhibits α-MSH-Induced Melanogenesis through the Acceleration of ERK and PI3K/Akt-Mediated MITF Degradation
また、Figure 4 の表は論文中に記載されている、ショウガオールによるチロシナーゼ活性の抑制を示すデータです。B16F10細胞(悪性黒色腫=皮膚がんの一種)に対してショウガオールを作用させ、チロシナーゼ活性を測定しています。その結果はショウガオールの濃度依存的にチロシナーゼ活性が低下している事が分かります。つまりメラニン生成が抑制され、肌は美白となります。
9.参考
・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 282-283