ウイキョウ(茴香) 英名:Fennel ラテン名:Foeniculi Fructus
基原植物:Foeniculum vulgare Miller (セリ科 Umbelliferae)
基原植物は、多年草で、草丈が約2mで6~8月頃に黄色の小さな花を多数つけます。
一般的にウイキョウの名称は、英語読みのフェンネル、フランス語読みのフヌイユが多用され、そちらの方がお馴染みです。
植物全体から甘くスパイシーな香りがして、料理ではカレーなどの香辛料として使われています。また、ハーブティーはたいへんポピュラーで、特に女性に人気があります。また、精油の独特な芳香はアロマテラピーで親しまれています。
ウイキョウの花
1.基原
1-1. 基原
本品はウイキョウ Foeniculum vulgare Miller (Umbelliferae)の果実である。
1-2. 調製
9月前後の果実が成熟する前の黄緑色に変わり始めた頃に収穫し、天日もしくは風通しの良い日陰で乾燥させます。
2.産地
2-1.日本
北海道、岩手県、長野県、鳥取県、佐賀県などで栽培されています。平安時代に中国から渡来しました。
2-2.中国
内蒙古自治区、山西省などで栽培されています。4~5世紀頃にヨーロッパから伝わりました。
2-3.ヨーロッパ
原産地は地中海沿岸と言われています。中世では生薬やスパイス以外に入浴剤としても利用されています。フランス、イタリア、ドイツなどで栽培されています。
2-4.その他
ウイキョウの産地は多く、インド、エジプトなどでも栽培されています。
3.主な成分
3-1.trans-Anethol(アネトール)
(CAS No. 104-46-1) 【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ
ウイキョウの主成分。砂糖の約13倍の甘さを持ちます。
主な効果:去痰作用、抗菌作用などが知られています。
3-2.Estragole(エストラゴール)
(CAS No. 140-67-0) 【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社ホームページ
アネトールの二重結合の位置が異なる異性体。
主な効果:喘息の予防効果、抗アレルギー効果などが知られています。
3-3. その他
リモネン、p-アニスアルデヒド、フェンコンなど。
4.効能・効果
4-1.健胃作用
芳香性健胃薬として分類されています。独特な香りや味で胃液や唾液の分泌を促進します。
4-2. 駆風(くふう)作用
腸内ガスの排出を促し、腹部膨満感を改善します。腸の蠕動運動を亢進させます。
4-3. 去痰作用
肺や気管支から痰を吐き出し易くします。気道の分泌液を促進し、繊毛運動を亢進させます。
4-4. 利尿作用・発汗作用
カリウムを豊富に含み、塩分(ナトリウム)と水分を、尿や汗として排出します。
4-5.女性ホルモンに関する疾患の改善
アネトールにはエストロゲンと同様の働きがあり、更年期障害、生理不順、PMS(月経前症候群)の改善が期待できます。
4-6.その他
高血圧の改善、冷え性の改善、リフレッシュ効果などが挙げられます。
ヨーロッパでは万能薬とされています。
5.副作用
調査では、副作用はほとんどない、との記述も見られますが、過剰な摂取によって下記の可能性があります。
お茶などで摂取する場合:
・利尿作用や発汗作用が効きすぎて、頻尿、多汗、喉の渇きの様な脱水を起こす可能性があります。
・胃腸の過剰な蠕動運動で胃腸障害を起こす可能性があります。
・女性ホルモン様の働きがあるため、授乳中の方、妊婦、てんかんを持っている方は医師と相談して下さい。
6.副作用の回避
ウイキョウの服用量は、一日1~3gと言われています。
ウイキョウには多くの効果・効能がありますので、適量を守ればたいへん良い生薬と言えます。
7.ウイキョウの多様な研究
Figure 1 Biological activity of Foeniculum vulgare Mill
ウイキョウに関する主な研究テーマです(Figure 1)。
8.トピックス:近年の研究
ここではGoswamiらの、ウイキョウの持つ抗酸化活性に関する研究論文を紹介致します。
8-1.抗酸化剤の有効性
活性酸素は私達の生命活動において、免疫機能、感染からの防御、細胞間のシグナル伝達などを担っており、重要なものとなっています。しかし、紫外線、ストレス、食生活の偏り、喫煙などによって作り出される活性酸素は、体内において過剰となり、その結果、フリーラジカルを生成し、生活習慣病、細胞老化、発癌などを引き起こす事となります。従って、この過剰な活性酸素の除去・不活性化をする抗酸化剤が必要となります。
8-2.ウイキョウ抽出物の抗酸化活性に関する研究
ウイキョウ抽出物に関して、抗酸化活性の有無を確認し、さらにDNAのラジカルによる損傷からの保護作用を確認しました。
8-2-1. 試料の準備
ウイキョウを極性の比較的高い溶媒を用いて、ソックスレー抽出法によって3通りのフラクションを得ました。
抽出試料溶液
・FASE:Fennel aqueous seed extract(水抽出)
・FMSE:Fennel methanolic seed extract(メタノール抽出)
・FAcSE:Fennel acetonic seed extract(アセトン抽出)
8-2-2. DPPH法による抗酸化活性の確認
Figure 2 【出典】Nakanishi, I., et al. (2016). Aluminium ion-promoted radical-scavenging reaction of methylated hydroquinone derivatives.
DPPH法は、ラジカル分子の消失で抗酸化活性を評価する方法です。ラジカル分子として上図左のDPPH(2,2-Diphenyl-1-picrylhyrazil)を用います。この化合物は溶液中では紫色を呈色しています。ここに抗酸化活性を持つ試料を加えるとラジカルは消滅して、Figure 2の右の構造式となり、溶液は薄い黄色になります。ラジカルの消失率はλ517nmを測定する事によって求めました(Figure 2)。
Figure 3 【出典】Goswami, E.Y., et al. Assessment of Free Radical Scavenging Potential and Oxidative DNA Damage Preventive Activity of Trachyspermum ammi L. (Carom) and Foeniculum vulgare Mill. (Fennel) Seed Extracts.
Figure 3はDPPH法によるウイキョウの抗酸化活性の実験結果です。縦軸はラジカルの消失率を、横軸には濃度の異なるBHT及びウイキョウ抽出溶液を示しています。結果は全てのフラクションに抗酸化活性が認められ、特にメタノール抽出物、アセトン抽出物はコントロールのBHTとほぼ同等の活性を示すことがわかりました。
8-2-3. FRAP法による抗酸化作用の確認
Figure 4 【出典】Prior, R. L., et al. Standardized Methods for the Determination of Antioxidant Capacity and Phenolics in Foods and Dietary Supplements.
FRAP法は鉄イオンの酸化数の変化で、抗酸化活性を評価する方法です。つまり、TPTZ(2,4,6-tripyridyl-s-triazine)にFe3+を配位させた溶液に試料を加えて、Fe2+に還元される事で評価する方法です。Fe3+-TPTZ溶液は無色ですが、Fe2+-TPTZ溶液は青~紫を呈色します。λ593nmで測定をして比色定量をしました(Figure 4)。
Figure 5 【出典】Goswami, E.Y., et al. Assessment of Free Radical Scavenging Potential and Oxidative DNA Damage Preventive Activity of Trachyspermum ammi L. (Carom) and Foeniculum vulgare Mill. (Fennel) Seed Extracts.
Figure 5 はFRAP法によるウイキョウ抽出物の抗酸化活性の実験結果です。縦軸はBHTを基準としたFe2+の濃度を、横軸は濃度の異なるBHT、ウイキョウの抽出溶液を示しています。結果は全てのフラクションに、濃度依存的に抗酸化活性が認められました。抗酸化力はBHT>FMSA>FAcSE>FASEとなりました。
DPPH法とFRAP法の結果に差が出ていますが、試薬の立体選択性、各溶液に対する溶解度の差、含まれている他の抗酸化剤の影響が出ていると考察しています。
8-2-4. 抗酸化活性による、ラジカルで損傷するDNAの保護
Figure 6 【出典】Goswami, E.Y., et al. Assessment of Free Radical Scavenging Potential and Oxidative DNA Damage Preventive Activity of Trachyspermum ammi L. (Carom) and Foeniculum vulgare Mill. (Fennel) Seed Extracts.
DNA保護作用は、フェントン反応によって発生したヒドロキシラジカルが、DNA(牛胸腺)を損傷させて消失する様子を、電気泳動を用いて観察する事で評価しています。
*フェントン反応:過酸化水素とFe2+からヒドロキシラジカルを発生させ、このラジカルで種々の分解を行う反応。ここではDNAを損傷させる反応。
Figure 6 に電気泳動の結果を示します。
レーン1:牛胸腺のDNAです。
レーン2~4:「Fennel」と同じセリ科植物「Carom」によるDNA損傷の保護作用を示しています。詳しくはここで紹介しました、論文をご覧ください。
レーン5:FAcSE(アセトン抽出)を添加した結果です。わずかにDNAを観測する事が出来ます。
レーン6:FNSE(メタノール抽出)を添加した結果です。レーン1とほぼ同等にDNAを確認する事が出来ます。
レーン7:FASE(水抽出)を添加した結果です。DNAを確認する事が出来ます。
レーン8:試料を添加しない結果です。DNAを確認する事が出来ませんでした。
これらの結果から、ウイキョウの抽出物には抗酸化作用が認められ、更にこの抗酸化作用が、DNAをヒドロキシラジカルによる損傷から保護する事が示唆されました。
9.引用文献
・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 124-125