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生薬解説【サンシシ】       基本情報・学術トピックス

サンシシ(山梔子)

英名:Gardenia Fruit  ラテン名:GARDENIAE FRUCTUS

基原植物:クチナシ(梔子) Gardenia jasminoides Ellis (アカネ科)

基原植物であるクチナシは常緑低木で初夏に白い花が咲き、ジャスミンの様な甘い良い香りがします。多くは庭木など観賞用として栽培されています。かつて日本では「死人にくちなし」「嫁のもらうくちなし」と悪いイメージで言われてきましたが、現在は花言葉が示します様に「喜びを運ぶ」「優雅」「とても幸せ」と言ったハッピーな縁起の良い花として親しまれています。欧米ではデートや結婚式など男性から女性へ気持ちを伝える時に使われる事があるようです。

果実は古くから(飛鳥時代)黄色染料として、きんとんや沢庵などの食品の着色や、布の染料として用いられています。弱いにおいがあり、味は苦味があります。

クチナシの花

1.基原

1-1.基原

本品はクチナシGardenia jasminoides Ellis (Rubiaceae) の果実で、ときには湯通し又は蒸したものである。 本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、ゲニポシド2.7%以上を含む。

1-2.調製

晩秋~初冬の果実を収穫します。果柄及びがく片を通り除き,自然乾燥、または湯通し、または蒸した後、乾燥させます。

2.産地

2-1.日本:本州(静岡県以西)、四国、九州

現在、日本での生産量は少なく多くは輸入品です。

2-2.中国:浙江省,江西省,湖北省,湖南省,四川省,福建省など

2-3.その他:韓国、台湾など

3.主な成分

3-1.Geniposide(ゲニポシド)

(CAS No. 24512-63-8)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

3-2.Crocin(クロシン)

(CAS No. 42553-65-1)   【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

カロテノイド系色素成分

3-3.その他

Gardenoside、Genipsidic acidなど

4.効能・効果

4-1.精神安定作用

不眠、不安感、イライラ感の改善をします。

4-2.利胆作用(胆汁の分泌を促進し、また排胆する作用)

黄胆の改善に効果があります。

4-3.清熱作用

のぼせの改善、眼の充血の改善、解熱に効果があります。

4-4.消炎作用(外用剤として)

打ち身、捻挫に効果があります。粉末のサンシシと小麦粉(少量)を水に加えて混ぜ、練って外用剤として使用します。

4-5.その他

耳鳴り、声枯れの改善に効果があります。また、尿路疾患薬として服用される事があります。

5.副作用

長期の服用により腸間膜静脈硬化症があらわれるおそれがあります。

*症状:腹痛、下痢、便秘、腹部膨満等が繰り返しあらわれる。

Ref.:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 使用上の注意改訂情報(平成30年2月13日指示分)

6.副作用の回避

累積服用量は経口で約5,000gと報告されています。また長期間の服用(5年以上)の際には注意が必要です。

Ref.:Nagata, Y., et al. (2016). Total dosage of gardenia fruit used by patients with mesenteric phlebosclerosis. BMC Complementary and Alternative Medicine, 16, 207-

7.サンシシの多様な研究

Figure 1. Overview of pharmacological activities of Gardenia jasminoides in scientific literature analysis

*Protective effects : Neuroprotective activity for Alzheimer’s disease, Hepatoprotective activity, Gastro-protective activity, Skin protective activity, Nephro-protective activity

【出典】Rohan Sharadanand Phatak. (2015). Phytochemistry, Pharmacological Activities and Intellectual Property Landscape of Gardenia jasminoides Ellis: a Review.

Figure 1. に示します様に幅広い薬学的分野で研究されています。中でも抗炎症に関する研究が盛んに行われています。

Ref. ①:Rohan Sharadanand Phatak. (2015). Phytochemistry, Pharmacological Activities and Intellectual Property Landscape of Gardenia jasminoides Ellis: a Review. Pharmacognosy Journal, 7(5), 254-265

Ref. ②:Xiao, W., et al. (2017). Chemistry and bioactivity of Gardenia jasminoides. Science Direct, 43(5), 43-61

8.トピックス:近年の研究

ここでは、Morgane De Tollenaereらの、クチナシの果実抽出物(サンシシ)に関する、デジタルストレスからの肌の保護効果と光老化の防止効果の研究をご紹介致します。

8-1.ブルーライト

Figure 2. 太陽光線の種類

【出典】「光老化」啓発プロジェクト委員会

ブルーライトは太陽光に含まれる波長の、380~500nmの可視領域の光線で、そのエネルギーは高く、真皮にまで到達します。Figure 2.で示します様にブルーライトはUVAの波長に近く、お肌のハリ・弾力を担うコラーゲン、ヒアルロン酸などを産生する線維芽細胞に影響を与え、光老化を招きます。このブルーライトは、私達の生活の中では、スマートフォン・パソコン・テレビのスクリーンなどの身近なデジタル機器から発しており、これらの機器の使用による肌の老化が懸念されています。

8-2.ブルーライト照射を受けたヒフに対するクチナシ抽出物の細胞保護効果

真皮に達したブルーライトはヒフ線維芽細胞に影響を与え、細胞死に繋がるミトコンドリアネットワークの断片化、酸化ダメージ、色素沈着などを招き、その結果、シミやたるみなどの光老化を招きます。

8-2-1.ヒフ線維芽細胞のミトコンドリネットワークに対する効果

Figure 3. (Top panel) Representative images of mitochondrial network staining in normal human dermal fibroblasts that are either pre-treated or not pre-treated with the extract for 24 h. The blue light stress corresponds to irradiation at 447 nm for 1 h at 20 J/cm2. (Bottom panel) Network segmentation obtained from the staining. Magnification 40×

Figure 3. はヒフ線維芽細胞のミトコンドリアネットワークのイメージ画像を示しています。上と下の画像は、細胞核(上図)とミトコンドリアネットワーク(下図)を示しています。「Untreated(左)」の画像は何の影響も受けていない線維芽細胞のミトコンドリアネットワークを示しています。「Blue Light stress(左から2番目)」は細胞にブルーライトを照射した画像で、ネットワークは断片化され、ミトコンドリアがダメージを受けている事が分かります。一方で、クチナシ抽出物で処理をした「G.jasminoides fruit extract 0.002%」(右から2番目)及び「G.jasminoides fruit extract 0.004%」(右)の画像が示すミトコンドリアネットワークは、ブルーライト照射による断片化が見られず、ミトコンドリネットワークは保護されている事が分かります。

8-2-2.ヒフの酸化ストレスに対する保護効果

Figure 4. (a) Representative images of the oxidized protein staining of human skin explants that were treated or not treated with the extract and stressed or not stressed with 4 repeated blue light exposures at 63.75 J/cm2 .

Figure 4. (a)は酸化ストレスに関する結果を示しています。方法は成人女性のヒフ組織切片(ヒフ外植片)にブルーライトを照射し、酸化ストレスよって産生した酸化タンパク質(oxidized protein)を、染色によって測定を行いました。ヒフ外植片が酸化ストレスを受けて酸化タンパク質を発現した場合、濃赤色となります。

Figure 4 (a)「Untreated(左)」の画像は、ブルーライトを照射していないヒフ外植片を示しています。この画像では、ごくわずかな酸化タンパク質しか認められませんでした。「Blue light stress control(左から2番)」は、ヒフ外植片にブルーライトを照射した際の画像で、濃く染色され、酸化ストレスによる酸化タンパク質が多数、発現している事が分かります。一方で、クチナシ抽出物で処理をした「G.jasminoides fruit extract 0.002%」(右から2番目)及び「G.jasminoides fruit extract 0.004%」(右)の画像は、ブルーライト照射による酸化タンパク質の発現は僅かで、外植片はクチナシ抽出物によって保護されている事が分かります。

Figure 4. (b) Quantification of oxidized protein immunostaining. Statistical analysis with a Kruskal–Wallis ANOVA, followed by a Mann–Whitney U test in comparison to the blue light control, where * p < 0.05 and ** p < 0.01.

Figure 4 (b)は、(a)を数値化したグラフを示しています。このグラフはFigure 4 (a)の結果と同様に、ヒフ外植片をクチナシ抽出物で処理をする事によって、ブルーライト照射による酸化タンパク質の発現は、抑えられている事が分かります。

これらの結果から、ブルーライトを肌に照射する事による線維芽細胞のミトコンドリストレス及び酸化ストレスに対して、クチナシ抽出物には線維芽細胞の保護効果がある事が示唆されました。

8-3.ブルーライト照射によって抑制されたメラトニンサイクルに対するクチナシ抽出物の効果

メラトニンは睡眠のリズム・体温調節など多くの生物にとって大切なホルモンです。また、活性酸素の除去、細胞保護、免疫機能の強化、成長ホルモンの分泌、DNAの損傷軽減などの働きを持っており生命活動において有用な物質です。メラトニンは、脳の松果体から分泌されていますが、近年、ヒフを含む多くの細胞にもメラトニン受容体が発現し、メラトニンを産生している事が知られてきました。ここではブルーライトの照射を受けたヒフに関する、メラトニン分泌に着目したクチナシ抽出物の効果を示します。

8-3-1.メラトニンサイクルの維持効果

Figure 5. に筆者らが開発したhiPS (human induced Pluripotent Stem cells)を利用した実験方法によるメラトニン分泌量の結果を示します。

Figure 5. hiPS method:Quantification of melatonin release in the co-culture medium at day 1 in cells exposed or not exposed to blue light stress (20 mJ/cm2 ) and treated or not treated with the extract. Statistical analysis with a Kruskal–Wallis ANOVA, followed by a Mann–Whitney U test, in comparison with the blue light control, where * p < 0.05.

Figure 5.の「30min before the night(左)」のグラフから「Untreated」、「Blue light control」、「Extraract0.004%」に関してメラトニン分泌量はいずれも同等の値を示しています。

「30min before the night」と「2h after the night(左から2番目)」のグラフより、「Untreated」では、nightではメラトニン分泌量は増加しました。また無添加でブルーライトを照射した「Blue light control」では、メラトニンの分泌量はnightにおいて増加しない事が分かりました。一方で、クチナシ抽出物で処理をした「Extract 0.004%」はブルーライトを照射しているにも関わらず、「Untreated」とほぼ同程度のメラトニンを分泌する事が分かりました。また、この傾向は「5h及び8h Night」においても継続する事が分かりました。

この結果から、ブルーライトを照射する事により、昼夜のメラトニンの分泌量は常に抑制され、メラトニンサイクルは行われない一方で、クチナシ抽出物で処理をした細胞はnightにおいて「Untreated」とほぼ同等のメラトニンが分泌され、メラトニンサイクルを維持させる事が出来る事が分かりました。

この結果はクチナシ抽出物を処理する事によって、ブルーライト照射の影響を受けずにメラトニンサイクルが維持できる事が示唆されました。

8-3-2.MT1受容体に関する、メラトニン、crocetin、crocinのドッキングスタディー(affinity scoreの比較)

*MT1受容体:メラトニン受容体の一つで主に、体温や血圧を下げる事で入眠を促す。

*crocetinとcrocin の構造式

Figure 6. Structures of crocetin(A) and crocin(B)

(A):crocetin(crocinの代謝物) (B):crocinクチナシ抽出物の成分

Figure 7. Representative images of melatonin (a), crocetin (b), and crocin (c) from the analysis of docking to the receptor MT1R. The green area represents the MT1 receptor surface, and the gold area represents the binding site of melatonin on the MT1 receptor. Carbon atoms are in white, oxygen atoms are in red, nitrogen in blue, halogens are in light blue (cyan).

Figure 7. にMT1受容体に対するmelatonin(a)、crocetin(b)、crocin(c)のドッキングスタディーの結果を示します。melatonin(a)及びcrocetin(b:クチナシ抽出物の代謝物)は、MT1受容体に対して親和性を持ち抱合している様子が分かります。一方で、crocin(c:クチナシ抽出物)はMT1受容体に抱合されていません。

Table 1. Affinity score

Table 1. はFigure 7.を数値化したAffinity Scoreを示しています。Figure 7.の結果と同様にMT1受容体とcrocetin(b)はmelatonin(a)とほぼ同様の親和性がある事が分かります。一方でcrocin(c)はMT1受容体との親和性は全くありません。

つまり、メラトニンサイクルの維持に関与する化合物は、クチナシの成分の一つであるcrocinがヒフ表面で代謝(加水分解)されたcrocetinに、melatoninと同様の効果を持つ事が分かりました。

8-4.クチナシ抽出物のクリームを塗布したヒフに関する光老化の防止効果

Figure 8. Representative images of volunteers who applied the extract at 2% (a) or the placebo (b) for 56 days. Colour palette is a calibration pattern.

*volunteerは18~50歳の女性で、(a)、(b)それぞれ20名づつ

Figure 8. に代表的なvolunteerの顔面写真を示します。1日4時間以上、56日間デジタル機器にばく露させ、extract(a)群にはクチナシ抽出物を含んだクリームを、placebo(b)群には無添加クリームを、それぞれ1日2回塗布した結果を示します。所見として(a)のシワの数は、56日塗布によって少なくなっている事に対して、(b)のシワの数は0日とほぼ変わりがない事が分かります。

Figure 9. VISIA® wrinkle analysis of the face after 56 days of application of a cream containing 2% or 0% (placebo) of the extract. A non-parametric paired Wilcoxon test was used to analyze the effects of the duration of application (D0 vs D56), and a non-parametric unpaired Mann–Whitney U test was used to compare products with a significant effect, with * p < 0.05 and ** p < 0.01.

また、Figure 9. にはPlacebo群と2%Extaract群のシワの数を定量したグラフを示します。その結果はクチナシ抽出クリームを塗布する事によって、プラセボ群よりもシワの数は約は21%減少し、デジタル機器の影響が少なくなる事が分かります。

以上の結果から、デジタル機器によって生じる肌ダメージから、クチナシの抽出物(サンシシ)には、①線維芽細胞の保護効果、②メラトニンサイクルの維持、③光老化の防止効果がある事が確認できました。

*ここで用いられたFigure 3~9, Table 1.の出典

【出典】:Tollenare, M., et al. Gardenia jasminoides Extract, with a Melatonin-like Activity, Protects against Digital Stress and Reverses Signs of Aging.(Ref.①)

 

Ref. ①:Tollenare, M., et al. (2023). Gardenia jasminoides Extract, with a Melatonin-like Activity, Protects against Digital Stress and Reverses Signs of Aging. International Journal of Molecular Sciences, 24(5), 4948-

Ref. ②:Konrad Kleszcznski and Tobias W. Fischer. (2012). Melatonin and human skin aging. Dermato-Endocrinology, 4:3, 245-252

Ref. ③:Jyoti Kumari MBBS, MD., et al. The impact of blue light and digital screens on the skin. (2023). Journal of Cosmetic Dermatology, 22(4), 1185-1190

Ref. ④:Slominski, A., et al. (2008). Melatonin in the skin: synthesis, metabolism and functions. TRENDS in Endocrinology and Metabolism, 19(1), 17-24

Ref. ⑤:Slominski, A., et al. (2018). Melatonin: A Cutaneous Perspective on its Production, Metabolism, and Functions. (2018). Journal of Investigative Dermatology, 138(3), 490-499

Ref. ⑥:Slominski, A., et al. (2014). Local Melatoninergic System as the Protector of Skin Integrity. (2014). International Journal of Molecular Sciences, 15(10), 17705-17732

Ref. ⑦: Fischer, T., et al. (2008). Melatonin as a major skin protectant: from free radical scavenging to DNA damage repair. (2008). Experimental Dermatology, 17(9), 713-730

Ref. ⑧:「光老化」プロジェクト委員会

Ref. ⑨:「生薬解説【オウバク】基本情報・学術トピックス」. 健美薬湯株式会社ホームページ

9.引用文献

第十八改正日本薬局方

日本薬局方収載生薬の学名表記について

公益社団法人東京生薬協会 ホームページ

日本漢方生薬製剤協会 生薬一覧 「サンシシ」

生薬詳細-薬用植物総合情報データベース

熊本大学薬学部薬用植物園 植物データベース

Metabolomics JP

漢方薬のきぐすり.com 山梔子

QLife漢方 ホームページ

福田龍株式会社 ホームページ

武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園 「クチナシ」

株式会社ウチダ和漢薬 生薬の玉手箱

富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 130-131

 

 

 

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