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生薬解説【ソウジュツ】      基本情報と学術トピックス

ソウジュツ(蒼朮) 英名:Atractylodes Lancea Rhizome ラテン名:Atractylodes Lancea Rhizome

基原植物:Atractylodes lancea De Candolle (ホソバオケラ)、Atractylodes chinensis Koidzumi(シナオケラ)(キク科 Compositae

ソウジュツの基原植物は多年草で、草丈は30~80㎝ほど、鋭く長いトゲのある葉(苞葉:ホウヨウ)に囲まれた花が咲きます。ソウジュツには特異なにおいがあり、僅かに苦い味がします。5月~6月頃の若芽は山菜として食べられています。

ソウジュツの表面に精油成分由来(主にヒネソール、β-オイデスモール)の白色綿状の結晶が析出し、この結晶が多いものほど良品とされています。

同じキク科の植物であるビャクジュツ(白朮)の効能・効果はソウジュツと類似しています。また、成分もほぼ同じですが、ソウジュツはアトラクチロジン(ポリアセチレン)を多く含み、一方で、ビャクジュツはアトラクチロジンをほとんど含みません。そのため第十八改正日本薬局方技術情報のビャクジュツの純度試験において、アトラクチロジンを含まない事が規定されています。

ホソバオケラの花

1.基原

1-1.基原

本品はホソバオケラAtractylodes lancea De Candolle, シナオケラAtractylodes chinensis Koidzumi又はそれらの 種間雑種(Compositae)の根茎である。

1-2.調製

秋から冬の枯死する頃に、根茎(根)を掘り出し、水洗した後に乾燥する。

2.産地

2-1.日本

江戸時代(享保の頃)に中国より渡来しました。当時、佐渡(新潟県)で盛んに栽培され「サドオケラ」と呼ばれていました。

現在、日本での生産はほぼありません。

2-2.中国

ホソバオケラAtractylodes lancea De Candolle:主に江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、四川省で栽培されています。

シナオケラAtractylodes chinensis Koidzumi:主に黒竜江省、吉林省、遼寧省、河北省、河南省、山東省、山西省、陝西省、寧夏回族自治区、甘粛省で栽培されています。

3.主な成分

3-1.Atractylodin(アトラクチロジン)

(CAS No. 55290-63-6)   【構造式:出典】MedChemExpress ホームページ

2つの3重結合を持つポリアセチレン構造を特徴とし、光に当てると黒変し各種溶媒に不溶の重合体を生成します。

3-2.Hinesol (ヒネソール)

(CAS No. 23811-08-7)   【構造式:出典】MedChemExpress ホームページ

セスキテルペン骨格を有しています。

3-3.β-Eudesmol(β-オイデスモール)

(CAS No. 473-15-4)   【構造式:出典】MedChemExpress ホームページ

セスキテルペン骨格を有しています。

3-4. Atractylon(アトラクチロン)

(CAS No. 6989-21-5)   【構造式:出典】MedChemExpress ホームページ

セスキテルペン骨格を有しています。

4.効能・効果

4-1.健胃・整腸作用

胃もたれによる消火不良や食欲不振を改善します。

4-2.水毒(体内の水の巡りが悪く、不要な水分が溜まっている状態)の改善

発汗・利尿を促し、むくみ、めまい、二日酔い、関節痛などを改善します。

5.副作用

(ソウジュツが配合されている漢方処方の添付文書情報を参考にしてください)

6.副作用の回避

副作用の多くは過剰摂取に起因しています。過量の服用や長期使用には注意が必要です。

7.ソウジュツの多様な研究

Figure 1. Biological activities of Atractylodes Lancea Rhizome

Ref. : Nut Koonrungsesomboo, Kesara Na-Bangchang, Juntra Kabwang., (2014). Therapeutic potential and pharmacological activities of Atractylodes lancea (Thunb.) DC. . Asian Pacific Journal of Tropical Medicine, 7(6) , 421-428

8.トピックス:近年の研究

ここではWEI Yuanらの、ソウジュツの水抽出物の併用による、トリプトリド(雷公藤の主成分)の毒性の回避と抗炎症作用の促進効果に関する研究をご紹介致します。

8-1.雷公藤(Tripterygium wilfordii Hook F (TWHF)

中国では雷公藤は、リウマチ性関節炎を含む炎症性疾患、自己免疫疾患、慢性腎炎などの治療を目的として臨床で用いられています。しかし、強い薬効を有している一方で毒性は非常に高く、消化器、循環器、生殖器などに対する副作用が認められており、重篤化して死に至る危険性があります。

雷公藤の花

8-2.ソウジュツの水抽出物の併用によるトリプトリドの毒性回避

8-2-1.生薬の併用による雷公藤の毒性回避

中国医療において、雷公藤にカンゾウやボタンなどの生薬を併用して、肝臓のCYP3Aの誘導を促し、クリアランスの加速による毒性の軽減が知られています。一方で、毒性の軽減と共に薬効の低下が認められ。ここではソウジュツに着目し、毒性の軽減と共に抗炎症作用の促進に関する調査を行ました。

8-2-2.ソウジュツによるCYP3Aの発現

まず、ソウジュツのマウス肝臓のCYP3Aの誘導に関して調査を行いました。その結果をFig.2に示します。

Fig. 2. Liver CYP3A expression in the mice treated with the A. lancea rhizome water extract (n = 3). (A) Representative Western blots showing that the water extract increased liver CYP3A protein levels. (B) Graph showing that the water extract resulted in a significant increase in the Cyp3a11 mRNA levels. The data are representative of the results obtained from three separate quantitative PCR analyses. **P < 0.01 (t test) as compared with the vehicle group

【出典】Yuan, W., et al. Atractylodes lancea rhizome water extract reduces triptolide-induced toxicity and enhances anti-inflammatory effects

*TP:トリプトリド(triptolide)

*Phenobarbital:抗てんかん薬 CYP3Aの誘導によって代謝される。

Fig.2Aに Western blotsの結果を示します。CYP3Aの誘導に関して、ソウジュツの水抽出物はVehicle及び精油よりも高い結果となりました。

Fig.2BにRT-PCRによる定量の結果を示します。Fig.2Aの結果を反映してVehicleやソウジュツの精油よりも、ソウジュツの水抽出物の方が約2倍、CYP3Aの誘導が認められました。この結果を受けて、以降の検討では水抽出物に焦点をあてて実施しています。

8-2-3.ソウジュツの水抽出物の併用によるトリプトリドの毒性回避

Table 1.にTP及びソウジュツの水抽出物を投与(i.p.)したマウスの血清中のALT、AST、GSH、BUNの数値を示します。

Table 1. The serum biochemical indices for the different experimental groups a

【出典】Yuan, W., et al. Atractylodes lancea rhizome water extract reduces triptolide-induced toxicity and enhances anti-inflammatory effects ALT:GPT 肝臓などに多く含まれているアミノ酸代謝酵素(参考 ヒトの基準値 5~40IU/L)

AST:GOT 肝臓・心臓・筋肉などに多く含まれているアミノ酸代謝酵素(参考 ヒトの基準値 8~40IU/L)

GSH:血清グルタチオン 細胞内抗酸化剤(参考 ヒトの基準値 1~2mmol/L)

BUN:尿素窒素 腎臓機能のパラメーター(参考 ヒトの基準値 7.5~20mg/dL)

Table 1.の結果より、マウス血清中のALT、AST、BUNに関して、各数値は増加し、肝臓及び腎臓の毒性が上昇した事が分かります。一方でソウジュツの水抽出物を共存させた場合、Vehicleに近い値となり、TPの持つ毒性が抑制された事が分かります。

8-3.ソウジュツの水抽出物の併用によるトリプトリドの抗炎症作用の促進

ソウジュツは抗炎症作用を有する事が知られています。そこで、ソウジュツとの併用によりTPの持つ抗炎症作用が、相乗効果によって促進するかどうか実験を行いました。

Fig. 3. The effects of water extracts of A. lancea rhizomes and licorice on xylene-induced edema (A) and inhibition rate (B) in mouse ears when co-administered with TP. The data are expressed as the mean ± SD of three independent experiments. * P < 0.05, **P < 0.01 (t test), significantly different from the vehicle group. # P < 0.05 (t test), significantly different from the TP group

【出典】Yuan, W., et al. Atractylodes lancea rhizome water extract reduces triptolide-induced toxicity and enhances anti-inflammatory effects

Fig.3A及び3Bの結果から、TP単独の抗炎症作用よりも、ソウジュツの水抽出物との併用の方が濃度依存的に抗炎症効果が増加している事が分かります。この結果より、TPの持つ抗炎症効果はソウジュツの水抽出物によって促進したと考えられます。

さらにここではLicorice(スペインカンゾウ)の水抽出物との比較も行っています。カンゾウには、幾らかの生薬との組み合わせによって、薬効の向上や毒性の軽減を有する事が知られています。しかし、カンゾウとTPの併用に関して、毒性の軽減は知られていますが、薬効の促進に関する報告は知られていません。ここで得られたFig.3のデーターでは、カンゾウとTPの併用による活性の促進は認められませんでした。

雷公藤はソウジュツと併用する事によって、雷公藤の主成分であるトリプトリドの毒性を回避する事ができ、更に相乗効果により抗炎症作用の促進が認められました。

Ref. ① : Yuan, W., et al. (2017). Atractylodes lancea rhizome water extract reduces triptolide-induced toxicity and enhances anti-inflammatory effects. Chinese Journal of Natural Medicines, 15(12), 0905-0911

Ref. ② : 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 ライコウトウ(サンダーゴッドバイン)

Ref. ③ : Song, HY., et al. (2008). Topical transduction of superoxide dismutase mediated by HIV-1 Tat protein transduction domain ameliorates 12-O-tetradecanoylphorbol-13- acetate (TPA)-induced inflammation in mice. Biochemical Pharmacology, 75(6), 1348-1357

Ref.④ : Tai, T., et al. (2014). Glycyrrhizin accelerates the metabolism of triptolide through induction of CYP3A in rats. Journal of Ethnopharmacology, 152(2), 358-363

Ref. ⑤ : Yahara, S., et al. (1989).Studies on the constituents of Atractylodes lancea. Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 37(11), 2995-3000

Ref. ⑥ : 健美薬湯株式会社 薬湯研究所 研究実績 カンゾウ

9.引用文献

第十八改正日本薬局方

日本薬局方収載生薬の学名表記について

日本漢方生薬製剤協会 生薬一覧 ソウジュツ

公益社団法人東京生薬協会 新常用和漢薬集 ソウジュツ

生薬詳細-薬用植物総合情報データベース

Metabolomics JP

株式会社ウチダ和漢薬 生薬の玉手箱 蒼朮(ソウジュツ)と白朮(ビャクジュツ)

武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園 ソウジュツ

神戸学院大学薬学部付属薬用植物園 薬草園だより

養命酒製造株式会社 生薬百選

MSG株式会社 健タメ 生薬辞典

福田龍株式会社 ホームページ

・ 第十八改正日本薬局方技術情報 JPTI 2021, 1345-1346(ソウジュツ)及び 1388(ビャクジュツ)

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 42-43

 

 

 

 

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