ブクリョウ(茯苓) 英名:Poria Sclerotium ラテン名:Poria
基原植物:Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) (サルノコシカケ科 Polyporaceae)
ブクリョウはサルノコシカケ科のキノコの一種です。通常は地中にあり、先のとがった約1メートルほどの長さの鉄製の「茯苓突き」を用いて見つけます。
生薬以外に薬膳料理として用いられ「四神湯」や「ブクリョウ粥」が知られています。また、最中(もなか)の様な「茯苓挟餅」は北京の名菓として有名です。
マツホドの菌核 【出典】公益社団法人 日本薬学会
1.基原
1-1.基原
本品はマツホドWolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) (Polyporaceae)の菌核で、通例、外層を
ほとんど除いたものである。
1-2.調製
アカマツやクロマツなどを伐採してから3~5年経過した切株の付近で、8~9月頃に掘りおこし15~30cmのところにある根の土砂を除き,外皮を取り去り、切断し乾燥する。
2.産地
2-1.日本
現在、日本産はほとんど流通しておらず、概ね中国産です。
平安時代の「本草和名」(900年頃)に記載があり、薩摩産が有名でした。
漢方薬に汎用されており、294処方の内93処方に配合されています。
2-2.中国
雲南,安徽,湖北,河南、四川など
2世紀頃の書物「神農本草経」(2世紀頃)に、主に利尿剤として記載されています。
2-3.韓国、朝鮮
3.主な成分
3-1.Pachyman(パキマン)
Pachyman – from Poria cocos(Synonyms b-D-Glucan)
(CAS No. 9037-88-1) 【構造式:出典】BIOSYNTHホームページ
ブクリョウの乾燥重量の約93%を占めています。
3-2. Triterpenes
3-2-1.Pachymic acid(パキミン酸)
(CAS No. 29070-92-6) 【構造式:出典】富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ
四環性トリテルペノイドです。
3-2-2. Triterpenes
上述のパキミン酸以外にツムロス酸、エブリコ酸など91種類が単離されています。概ね、lanostane骨格、secolanostane骨格を有しています。
4.効能・効果
4-1.利水作用
体内の水分のバランスを整える作用で、利尿や発汗を促して、むくみや残尿感などの症状を緩和します。尿路疾患用薬として利用されています。
4-2.健脾・健胃作用
胃の働きをよくして、水分の停滞を改善します。 その作用から、食欲不振、胃もたれ、胸やけ、消化不良、吐き気などの症状を緩和します。
4-3.安神・リラックス作用
精神を安定させます。情緒障害、不眠症を改善します。
4-4.その他
口の渇き、めまい、肩こり、筋肉の痙攣などにも効果があります。
5.副作用
5-1.胃の不快感
主作用に健脾・健胃がありますが、過剰に作用して、食欲不振・胃部不快感・軽い吐き気・下痢を起こす事があります。
5-2. 発疹、発赤、かゆみ
6.副作用の回避
副作用の発現は概ね過剰摂取によります。ブクリョウの1日の摂取量は3~6gと言われています。
7.ブクリョウの多様な研究
Figure 1. Biological activities of Wolfiporia extensa
ブクリョウの研究に関して、PubMed、Google Scholarで調査したところ、Figure 1. に示す様に多岐に渡る事が分かりました。特にPCP(Poria cocos polysaccharide 多糖類)に関して、溶媒抽出した際の分画に関する論文が散見されます。
8.トピックス:近年の研究
ここでは、ブクリョウ抽出物のメラニン生成抑制に関するHyunKyung Lee, Hwa Jun Cha.の研究をご紹介します。
この研究で用いるブクリョウ抽出物は、ブクリョウを70%エタノール溶液で抽出する事によって得ました。
8-1.メラニン色素沈着のメカニズム
Figure 2.メラニン排出のメカニズムとメラニン色素沈着
紫外線によって、ケラチノサイトからα-MSH(α-Melanocyte Stimulating Hormone:メラノサイト刺激ホルモン)が分泌され、メラノサイトを刺激してチロシナーゼを活性化させ、メラニンの合成を促進します。ここで生成したメラニンは、徐々に皮膚表面に押し上げられ角質層に達してアカとして排出されます。これがターンオーバーで約28日のサイクルで行われます。しかし、何らかの原因でターンオーバーのサイクルが遅くなると、黒色のメラニンは皮膚の中に溜まります。排出されずに残ったメラニンが蓄積され、色素沈着を起こしてシミとなります。
8-2.ブクリョウ抽出物のメラニン生成の抑制効果
まず、B16F10 細胞のメラニン生成に関して、ブクリョウ抽出物の影響を調査しました。
Figure 3.Effect of Poria cocas Wolf extracts on α-MSH-mediated melanin synthesis in B16F10 cells. Melanin synthesis was inhibited by Poria cocas Wolf extracts in α-MSH-stimulated B16F10 cells. Cells were treated with 50 nM α-MSH in absence and presence of 100 µg/ml Poria cocas Wolf extracts. (A) Pallet is taken picture using digital camera. (B) And melanin content was determined by optical density at 415 nm. Each bar represents the mean ± SD from three independent experiments. * P < 0.05 compared with controls. # P < 0.05 compared with α-MSH-treated B16F10 cells.
【出典】HyunKyung Lee, Hwa Jun Cha. Poria cocos Wolf extracts represses pigmentation in vitro and in vivo
Figure 3Aの写真は、B16F10細胞のメラニン生成の様子を示しています。左はcontrolです。中央はα-MSH処理を行った時の様子でcontrolに対して黒変している事が分かります。一方、右はブクリョウ抽出物存在下において、α-MSH処理を行った様子で、中央の写真よりも色は薄くなっている事が分かります。
Figure 3Bのグラフは縦軸にメラニン含有率を示しています。左のbarはcontrolです。中央のbarはB16F10細胞にα-MSH処理を行った時の結果で、controlに対してメラニン含有率が約2.4倍増加しています。一方、右のbarはブクリョウ抽出物存在下でα-MSH処理を行った時の結果で、メラニン含有率は約1.7倍の増加に留まっている事が分かりました。
つまり、Figure 3の結果から、ブクリョウ抽出物はB16F10細胞のメラニン生成を抑制している事が分かりました。
8-3.ブクリョウ抽出物のチロシナーゼ活性の抑制効果
B16F10 細胞のチロシナーゼ活性に関して、ブクリョウ抽出物の影響を調査しました。
Figure 4. Effect of Poria cocas Wolf extracts on tyrosinase activity. (A) Poria cocas Wolf extracts decreased cellular tyrosinase activity. Cells were seeded in 60 mm culture plates and treated with the indicated doses of Poria cocas Wolf extracts (100 µg/ml) and 50 nM α-MSH. After a 48 h incubation, tyrosinase activity of cell lysate was determined by synthesized melanin conversed from L-DOPA. (B) Poria cocas Wolf extracts directly causes no obvious tyrosinase activity in B16F10 cells. Mushroom tyrosinase was incubated with Poria cocas Wolf extracts. And melanin content was determined by optical density at 415 nm. Each bar represents the mean ± SD from three independent experiments. * P < 0.05 compared with controls. # P < 0.05 compared with α-MSH-treated B16F10 cells.
【出典】HyunKyung Lee, Hwa Jun Cha. Poria cocos Wolf extracts represses pigmentation in vitro and in vivo
*Ascorbic acid:チロシナーゼ活性を抑制する。
Figure 4Aのグラフは縦軸にチロシナーゼ活性を示しています。左のbarはcontrolです。中央のbarはB16F10細胞にα-MSH処理を行った時の結果で、controlに対してチロシナーゼ活性が約2.5倍増加しました。一方、右のbarは、ブクリョウ抽出物存在下でα-MSH処理を行った時の結果で、チロシナーゼ活性が約2倍の増加に留まっている事が分かりました。
Figure 4Bのグラフは、チロシナーゼ活性を抑制するアスコルビン酸処理を行った結果を示しています。左のbarはcontrolです。中央のbarはブクリョウ抽出物処理を行った時の結果で、controlと同等のチロシナーゼ活性を有していました。一方で右のbarは、アスコルビン酸処理を行った時のチロシナーゼ活性で、約40%抑制されている事が分りました。
これらの結果から、ブクリョウ抽出物のメラニン生成の抑制は、チロシナーゼ活性の抑制が関与している事が示唆されました。
8-4. ブクリョウ抽出物のMITF及びチロシナーゼ発現の抑制効果
B16F10 細胞のMITF及びチロシナーゼの発現に関して、ブクリョウ抽出物の影響を調査しました。
Figure 5. Effect of Poria cocas Wolf extracts on tyrosinase and MITF expression in B16F10 cells. Poria cocas Wolf extracts decreased MITF and Tyrosinase mRNA and protein in B16F10 cells. (A) Western analysis of MITF and Tyrosinase expression in 50 nM α-MSH and Poria cocas Wolf extracts-treated B16F10 cells. After 48 h of incubation, the levels of MITF and Tyrosinase proteins were evaluated by western blotting. β-actin was used as an internal control. (B) Analysis of relative MITF and Tyrosinase mRNA expression in Poria cocas Wolf extracts -treated B16F10 cells. The level of MITF and Tyrosinase mRNA was determined by qRT-PCR. Values represent the mean ± SD of three independent experiments. * P < 0.05 compared with controls. # P < 0.05 compared with α-MSH-treated B16F10 cells.
【出典】HyunKyung Lee, Hwa Jun Cha. Poria cocos Wolf extracts represses pigmentation in vitro and in vivo
*MITF(microphthalmia-associated transcription factor):メラニン生合成系酵素遺伝子の発現制御および、メラノサイトの分化・増殖の調節に関与している。
Figure 5AはB10F16細胞に対してα-MSH処理及びブクリョウ抽出物添加のWestern blottingの結果を示しています。左はcontrolでMITF及びチロシナーゼは発現していない事が分かります。中央はα-MSH処理のみを行った結果で、MITF及びチロシナーゼを確認する事が出来ます。また、右はブクリョウ抽出物存在下、α-MSHで処理をした結果を示しています。中央と同様にMITF及びチロシナーゼを確認する事が出来ます。
Figure 5Bのグラフは、縦軸にMITFに関連したmRNA及びチロシナーゼに関連したmRNAの発現率を示しています。左のbarはcontrolです。中央のbarはα-MSH処理を行った結果を示しています。controlに対してMITF関連のmRNAは約3倍の増加、チロシナーゼ関連のmRNAは約3.4倍の増加となりました。右のbarはブクリョウ抽出物存在下で、α-MSH処理を行った時の結果で、controlに対してMITF関連のmRNAは約2.2倍の増加、チロシナーゼ関連のmRNAは約2.5倍の増加に留まりました。
つまり、ブクリョウ抽出物のメラニン生成抑制はMITF及びチロシナーゼの発現が抑制された事に起因している事が分かりました。
8-5.ブクリョウ抽出物の美白効果
ブクリョウ抽出物の美白効果を調査しました。
8-5-1.実験方法
実験は以下の様に実施しました。
①被験者 20~30歳の女性 40名(内20名はプラセボ)
②塗布手順
-1)クリームの調製(contained 2%(wt%)ブクリョウ抽出物)
-2)2gを左右の頬に塗布
-3)朝晩2回塗布
-4)開始時、2週目と4週目に測定
8-5-2.ブクリョウ抽出物の美白効果
Figure 6. Effect of Poria cocas Wolf extracts on skin tone. Poria cocas Wolf extracts increased bright value in skin. Measurements were taken three times, namely before application and after 2 and 4 weeks of application. To evaluate skin tone, L* value was measured by spectrophotometer and data were statically analyzed using one-way ANOVA. Gray bar was Poria cocas Wolf extracts contained cream applied group. And white bar was control cream applied group. *PCWE is Poria cocas Wolf extracts.
【出典】HyunKyung Lee, Hwa Jun Cha. Poria cocos Wolf extracts represses pigmentation in vitro and in vivo
Figure 6.のグラフの縦軸はL*a*b*表色系のL*を示しています。
L*値は明るさを表し、数値が大きいほど明るく、小さいほど暗くなります。
Figure 7. L*値
【出典】株式会社吉田SKT コーティングMAGAZINE
実験開始時、controlクリーム塗布及びブクリョウ抽出物含有クリーム塗布のL*値はどちらも64付近を示しました。2週間の使用で、controlのL*値は約65付近に対して、ブクリョウ抽出物のL*値は68付近となり、美白効果がある事が確認できました。4週間使用時のL*値は2週間使用時とほぼ同じ値を示しました。つまり、ブクリョウ抽出物の美白効果はL*値で約4の上昇が期待できる事が分かりました。
これらの結果から、ブクリョウ抽出物には、チロシナーゼ遺伝子の発現抑制を機序とするメラニン生成抑制があり、更にこの機序由来と考えられる美白効果が得られる事が示唆されました。
Ref. ②:株式会社吉田SKT コーティングMAGAZINE
9.引用文献
・アリナミン製薬株式会社 ブクリョウ(茯苓)の成分・特徴 生薬・漢方事典 | 健康サイト
・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 298-299