Journal

生薬解説【ケイヒ】        基本情報から学術情報まで

ケイヒ(桂皮) 英名:Cinnamon Bark ラテン名:Cinnamomi Cortex

基原植物:Cinnamomum cassia Blume(クスノキ科 Lauraceae

原産地は中国南部、ベトナムの熱帯地方で、高さ12~17mの常緑高木です。特異な芳香があり,味は甘く,辛く,やや粘液性で,僅かに収れん性があります。

漢方薬の処方として高頻度で配合されています。

「ケイヒ」、「シナモン」、「ニッキ」は同じニッケイ属(Cinnamomum)に分類されますが、学名は異なり混同される事が多い様です。

【出典】ミヂカナ薬局 ホームページ

目次

1.基原

1-1.基原

Cinnamomum cassia J. Presl (Lauraceae )の樹皮又は周皮の一部を除いた樹皮。

1-2.調製

夏~秋に樹皮を剥がし、コルク層を除いて乾燥させます。

ケイヒの花

2.産地

2-1.日本:現在、一般的に温室でしか栽培できないため、概ね輸入されています。

古くは飛鳥時代に遣唐使によってもたらされた様です。奈良時代には中国から輸入され、上流階級の間で使用されていました。正倉院宝物の中に「桂心」と言う名称で、医薬品として奉納されました。

2-2.中国 :中国南部 (広東省、広西壮族自治区)

2世紀頃の薬学書にケイヒの記載があります。シルクロード経由でインドや中央アジアから伝わったと言われています。

2-3.ベトナム(北部から中部)

日本の輸入先の一つです。「ベトナム桂皮」と呼ばれており、中国産のケイヒより辛味が強く、精油含量も多く良品とされています。

3.主な成分

3-1.Cinnamaldehyde(シンナムアルデヒド、ケイヒアルデヒド)

(CAS No. 14371-10-9 )   【構造式:出典】Wikipedia

淡黄色液体でケイヒの香り成分です。

3-2.(E)-Cinnamic Acid((E)-ケイヒ酸)

(CAS No.140-10-3)   【構造式:出典】東京化成工業株式会社 ホームページ

3-3.その他

シンゼイラニンなどのジテルペンや、(-)-エピカテキンなどのカテキンが含まれています。

4.効能・効果

4-1.芳香性健胃作用

食欲不振、消化不良、吐き気、下痢などの症状を緩和します。

4-2.鎮痛作用

知覚中枢に作用するため鎮痛効果があります。特に頭痛に効果があります。

4-3.血液循環の改善

特に毛細血管の血行を促進して、冷え性、冷えからくる関節痛、肩こりに効果があります。また、発汗を促し解熱効果があるので、風邪薬として服用される事があります。

5.副作用

5-1.消化管

過剰に作用して、胃の不快感やもたれ、食欲低下、胸やけ、悪心、嘔吐 といった上部消化管症状が出ることがあります。

5-2.薬疹

経口にて摂取した際、稀に飲み始めに薬疹が起こる事があります。

参考:シンナムアルデヒドは、ケイヒアルデヒド(別名)として、ポジティブリスト制 度の導入に伴い、食品衛生法(昭和 22 年法律第 233 号)第 13 条第 3 項の規定に 基づき、人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質(対象外物質)に暫定的に定められている。

Ref. 対象外物質評価表 シンナムアルデヒド

6.副作用の回避

副作用の多くは過剰摂取によるものです。ケイヒの1日あたりの摂取量は0.9gと言われています。

7.ケイヒの多様な研究

Figure 1. Various pharmacological properties of Cinnamomum cassia.

【出典】Syed Faisal Zaidi. , et al. Diverse pharmacological properties of Cinnamomum cassia: A review.

Figure 1. はケイヒを対象とした研究分野をまとめた図になります。ここに示します様に多岐に渡り研究されています。

Figure 2. Pie chart with respect to several cancers where cinnamaldehydes have shown its promising effect

【出典】Sabyasachi Banerjee and Subhasis Banerjee. Anticancer Potential and Molecular Mechanisms of Cinnamaldehyde and Its Congeners Present in the Cinnamon Plant.

特にがんの研究が盛んで、ケイヒの主成分であるシンナムアルデヒドに関して、主に肺、血液、大腸・直腸、肝臓を対象とした研究報告が散見されます(Figure 2.)。

Ref. ① : Syed Faisal Zaidi. , et al.(2015). Diverse pharmacological properties of Cinnamomum cassia: A review. Pakistan Journal of Pharmaceutical Sciences, 28(4), 1433-1438

Ref. ② : Sabyasachi Banerjee and Subhasis Banerjee.  (2023) . Anticancer Potential and Molecular Mechanisms of Cinnamaldehyde and Its Congeners Present in the Cinnamon Plant. Physiologia, 3(2), 173-207

8.トピック:近年の研究

ここではChouらの、ケイヒとケイヒの主成分であるシンナムアルデヒドによるメラニン生成抑制と抗酸化作用の軽減に関する研究論文を紹介致します。

8-1.酸化ストレス

8-1-1.体内における活性酸素のホメオスタシス(恒常性)と酸化ストレス

体内において活性酸素は、病原体やがん細胞を攻撃する免疫機能や、細胞間の情報伝達、アポトーシスなど人が生きていく上で重要な役割を担っています。一方で、活性酸素が増えると、正常な細胞を攻撃して、肥満や高血圧などの生活習慣病、正常細胞のがん化などを招きます。そのため、体には活性酸素を消去するしくみ(抗酸化力)が備わっており、活性酸素の発生量とのバランスを保っています。つまり体内では活性酸素に関してホメオスタシス(恒常性)を保っています。

しかし、何らかの要因で活性酸素の発生量が抗酸化力を上回ると、そのバランスが崩れ、ホメオスタシスが保てなくなります。つまり「酸化ストレス」状態となります。

Figure 3. 活性酸素の発生量と抗酸化力

【出典】日本経済新聞「NIKKEI STYLE」2020年7月21日

8-1-2.酸化ストレスの要因

下図は酸化ストレスの要因を示しています。

Figure 4. 酸化ストレスの要因

Figure 4. の様な、生活をとりまく影響や身体の中で起こる不可抗力な要因が過度に加わると、酸化ストレスを引き起こし、多くの疾患を招く事になります。

8-2.ケイヒによるメラニン生成の抑制

8-2-1.皮膚のシミ、色素沈着の発症のメカニズム

Figure 5. シミ、色素沈着の発生のメカニズム

紫外線などによって活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)が発生します。ROSは細胞を酸化ストレスとし、次いでメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH: melanocyte-stimulating hormone)を分泌してメラノサイトを刺激します。この刺激によってチロシナーゼが活性化して、L-ロイシン、L-ドーパを酸化し、いくつかの中間体を経てメラニンが生成します。メラニンはターンオーバーによって表皮に移動して排出されます。過剰の活性酸素によるチロシナーゼの活性の上昇は、メラニンの過剰生産招き、ターンオーバーによる排出が追い付かなくなり蓄積し、色素沈着を起こします。これがシミ発生の機序です。

8-2-2.α-MSHにさらされたB16 細胞(がん化したマウスのメラノサイト)に関して、ケイヒ及びケイヒの主要成分であるシンナムアルデヒドによるメラニン生成抑制とその機序

8-2-2-1.ケイヒ及びケイヒの主成分であるシンナムアルデヒドによるメラニン生成抑制

Figure 6. The effects of CC-EO (A) and trans-cinnamaldehyde (B) on melanin content in α-MSH-treated B16 cells. The data are represented as the means ± S.D. of three independent experiments. * indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the untreated group; # indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the α-MSH-treated group.

CC-EO:The essential oil extracted from Cinnamomum cassia Presl

【出典】Chow, S., et al. (2013) . Cinnamomum cassia Essential Oil Inhibits α-MSH-Induced Melanin Production and Oxidative Stress in Murine B16 Melanoma Cells.

Figure 6. は、α-MSHにさらされたB16細胞に関して、CC-EO及びシンナムアルデヒドによるメラニン生成の抑制効果を示しています。縦軸はB16細胞中のメラニン含量を示しています。 CC-EO及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるメラニン含量を調査したところ、濃度依存的にメラニン生成を抑制している事が分かりました。

8-2-2-2.ケイヒとシンナムアルデヒドによるチロシナーゼ活性の抑制効果

Figure 7. The effects of CC-EO and trans-cinnamaldehyde on cellular tyrosinase activity (A,B) and tyrosinase expression (C,D) in α-MSH-treated B16 cells, respectively. The data are represented as the means ± S.D. of three independent experiments. * indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the untreated group; # indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the α-MSH-treated group.

【出典】Chow, S., et al. (2013) . Cinnamomum cassia Essential Oil Inhibits α-MSH-Induced Melanin Production and Oxidative Stress in Murine B16 Melanoma Cells.

Figure 7. (A)(B)は、α-MSHにさらされたB16細胞に関して、CC-EO及びシンナムアルデヒドによるチロシナーゼ活性を示しています。グラフの縦軸はチロシナーゼ活性を示しています。 CC-EO及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるチロシナーゼ活性を調査したところ、濃度依存的にチロシナーゼ活性を抑制している事が分かりました。

Figure 7. (C)(D)はα-MSHにさらされたB16細胞に関して、CC-EO及びシンナムアルデヒドによるチロシナーゼとβ‐アクチンの相対比を示しています。グラフの縦軸はβ‐アクチンを指標としたチロシナーゼの相対比を示しています。CC-EO及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるチロシナーゼとβ‐アクチンの相対比を調査したところ、濃度依存的にチロシナーゼの発現を抑制している事が分かりました。

つまり、(A)(B)(C)(D)の結果から、ケイヒ及びシンナムアルデヒドによるチロシナーゼ活性が抑制効果はチロシナーゼの減少による事が示唆されました。

8-2-2-3.ケイヒとシンナムアルデヒドによる酸化ストレスの軽減と抗酸化物質(GSH、Glutathione)の生成の促進効果

Figure 8. The effects of CC-EO and trans-cinnamaldehyde on lipid peroxidation (A,B) and GSH levels (C,D) in α-MSH-treated B16 cells, respectively. The data are represented as the means ± S.D. of three independent experiments. * indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the untreated group; # indicates a significant difference (p < 0.05) compared with α-MSH-treated group.

【出典】Chow, S., et al. (2013) . Cinnamomum cassia Essential Oil Inhibits α-MSH-Induced Melanin Production and Oxidative Stress in Murine B16 Melanoma Cells.

Figure 8. (A)(B)はα-MSHにさらされたB16細胞に関して、CC-EO及びシンナムアルデヒドによる酸化ストレスの抗酸化効果を示しています。グラフの縦軸は酸化ストレスの指標となるMDA(malondialdehyde)の濃度を示しています。 CC-EO及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるMDAの濃度を調査したところ、濃度依存的にMDAの濃度が減少している事が分かりました。この結果はCC-EO及びシンナムアルデヒドによって酸化ストレスが改善されている事を示しています。

Figure 8.(C)(D)はα-MSHにさらされたB16細胞に関して、CC-EO及びシンナムアルデヒドによる抗酸化物質であるGSHの濃度を示しています。グラフの縦軸はGSHの濃度を示しています。CC-EO及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるGSHの濃度を調査したところ、濃度依存的にGSHの濃度が増加している事が分かりました。

つまり、(A)(B)(C)(D)の結果から、ケイヒとシンナムアルデヒドによる酸化ストレスの改善効果は、GSHの増加による事が示唆されました。

8-2-2-4.ケイヒ及びシンナムアルデヒドによるGPx、SOD、CATの抗酸化活性の促進効果

Figure 9. The effects of CC-EO and trans-cinnamaldehyde on GPx (A,B); SOD (C,D) and CAT (E,F) activities in α-MSH-treated B16 cells, respectively. The data are represented as the means ± S.D. of three independent experiments. * indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the untreated group; # indicates a significant difference (p < 0.05) compared with the α-MSH-treated group.

抗酸化酵素であるGPx、SOD及びCATは細胞内の酸化還元に関するホメオスタシスに重要な役割を果たしています。α-MSHにさらされたB16細胞において、これらの酵素の抗酸化活性がどの様な挙動を示すのか調査しました。

Figure 8. の各グラフの縦軸は各酵素の抗酸化活性を示しています。

(E)(F)のグラフからB16細胞がα-MSHにさらされると、CATの酵素活性は下がる事が分かりました。一方で(A)(B)及び(C)(D)のグラフからα-MSHにさらされてもGPx及びSODの酵素活性は変化しない事が分かりました。

ここで、ケイヒ及びシンナムアルデヒド存在下での各酵素に関して抗酸化活性を調べると、(A)(B)及び(E)(F)のグラフから、ケイヒ及びシンナムアルデヒドの各濃度におけるGPx及びCATの酵素活性は上がる事が分かりました。一方で (C)(D)のグラフからSODの酵素活性はケイヒ及びシンナムアルデヒドの影響を受けない事が分かりました。

ここまでの結果をまとめますと、ケイヒ及びケイヒの主成分であるシンナムアルデヒドは、α-MSHにさらされたB16細胞に関して、チロシナーゼの活性抑制およびメラノーマの産生抑制と酸化ストレスの軽減が示唆されました。一方で、ホメオスタシスに重要な抗酸化酵素に関して、各酵素の抗酸化活性にバラつきが見られました。

8-2-2-5.今後の検討・研究

ここまでの結果から、今後の検討によって、ケイヒによる肌のシミ、色素沈着、しわ、たるみの改善が期待できます。

一方で、ホメオスタシスに重要な抗酸化酵素に関して、各酵素間に活性にバラつきが見られました。ここまでに見出した情報を合理的に説明するためには、メラニン合成制御におけるシグナル伝達物質であるcAMPの挙動や、メラニン細胞におけるMITF(微生異性関連転写因子)誘導などの調査する必要があると考えられます。

Ref. ① : Chow, S., et al. (2013) . Cinnamomum cassia Essential Oil Inhibits α-MSH-Induced Melanin Production and Oxidative Stress in Murine B16 Melanoma Cells. International Journal of Molecular Sciences, 14(9), 19186-19201

Ref. ② :日本経済新聞「NIKKEI STYLE」2020年7月21日

Ref. ③ :日本ザイル株式会社 日本老化制御研究所 脂質酸化損傷マーカー

9.引用文献

日本薬局方収載生薬の学名表記について

第十八改正日本薬局方

公益社団法人 東京生薬協会

日本漢方生薬製剤協会「ケイヒ」

漢方生薬研究所 ホームページ

アスゲン製薬株式会社 ホームページ

富山めぐみ製薬 ホームページ

若さのひみつ「ケイヒ」

元住吉こころみクリニック ホームページ

漢方ライフ

株式会社ウチダ和漢薬 ホームページ

QLife漢方 ホームページ

「健康食品」の素材情報データベース

福田龍株式会社 ホームページ 「ケイヒ」

Wikipedia シンナムアルデヒド

富士フィルム和光純薬株式会社 ホームページ

・漢方知識「生薬単」改訂第2版, 70-71

 

関連記事